読む映画リバイバル『純喫茶磯辺』

イタくも愛すべきダメ人間が集う喫茶店……架空であっても、思い出に残る名店だ

(2009年2月17日号より)

 もし、自分の身の周りに本当にいたら、「イタすぎるキャラクター」でしかないのに、映画の中では「愛すべきダメジン」に見えてしまう不思議。本作『純喫茶磯辺』に登場するのは、まさにそんな人々ばかり。さっそく紹介しよう。まずは宮迫博之が演じる“喫茶店磯辺”のマスター。8年前に妻と離婚して以来、高校生の娘と暮らす中年男だ。水道工をやっていたが、実父が急死し、遺産が舞い込んだことから喫茶店の経営に手を出す……どこをどう勘違いしたのか、ただ単に女にモテたいという理由だけで! つまりは適当に生きている、助平なオッサン。

 確認するまでもないが、コイツの名字が“磯辺”だから、喫茶店の名も磯辺。ネーミングも、看板も、内装もすべてがダサい。当然、客は来ない。しかし目的の足がかりは掴む。可愛いアルバイトを雇うことに成功するのだ。麻生久美子による、この謎めいたバイト女の造形が絶妙。『時効警察』の人気キャラ“三日月しずか”あたりから、彼女の演技は俄然面白くなってきたが、ここでのヒロイン像は、「私のこと知ったら、引くことばっかですよ」「私なんか最低ですよ」などと呟く、何かと思わせぶりな女。喫茶店磯辺オリジナルの趣味の悪いミニスカメイド服に身を包み、心なく笑う。日本映画にありがちな悪女ではなく、かといって聖母でもない、実に薄っぺらくも生々しいオンナが、そこにいる。

 監督・脚本は、傑作『机のなかみ』の吉田恵輔。女子高生好きを公言しているが、マスター磯辺の娘役に仲里依紗をセレクトしたあたり、さすが。映画はふくれっ面がキュートな彼女を軸に進行していき、3人がそれぞれの気持ちをぶつけ合う場面で大きくうねってみせる。まさかの麻生久美子、いやバイト女の「私、ヤリマンなんで」という衝撃的な一語を含むシーンを見逃すなかれ。

 今や喫茶店は、カフェに大手チェーン店に押されて、街から消えゆく存在だが、純喫茶磯辺は、架空にもかかわらず観れば愛すべきダメジンたちとともに、“思い出の喫茶店”に仲間入りするだろう。きっと必ず。

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遺産を元手に突如、喫茶店を開いた磯辺裕次郎(宮迫博之)。仕方なく店の手伝いをするのは、夏休み中のひとり娘・咲子(仲里依紗)。そこに素子(麻生久美子)と名乗る美人がバイト募集に誘われ、やってくる。ちなみに吉田監督の前作『机のなかみ』(’07年)の恋人役、あべこうじ&踊子ありが純喫茶磯辺の客として顔を見せている。

[週刊SPA!掲載]
●原作・監督・脚本・編集:吉田恵輔●出演:宮迫博之、仲里依紗、麻生久美子、他●2008年●日本