読む映画リバイバル『イルカの日』

喋るイルカの名アクターぶりに感心。この可愛さはズルい! ズルい!

(2009年6月23日号より)

 のどかだ。何とも、のどかなのだ。『イルカの日』。といえば、人間の言葉を話すようになったイルカが「大統領暗殺計画に利用される」という、ジャンル的には一応“SFサスペンス”に分けられている一品であり、DVD化を筋金入りの映画ファンが長年待ち望んでいた往年の名作である。が、繰り返すが、映画のトーンはとってものどか。終盤、カラダに機雷をつけられ、イルカが海中を進んでいくシークエンスも描かれるのだが、サスペンス的な面白みはそんなに期待しないほうがいい。それより「イルカと触れ合うと心が和む」とよく言われるように、むしろこれは、一種のアニマルセラピー映画の先駆作なのだ。

 つまり、人間とイルカの深い交流シーン(哀しすぎる運命の行方も含めて!)が、本作の主軸なのである。物語を牽引するイルカは2頭。名前はアルファーとベータ。海洋学者のジェイクが言葉を教えている。最も知能指数が高い哺乳類とはいえ、英語をむりやり理解させ、喋らせようとする姿は、滑稽だ。だがいつしか意思疎通ができるようになってしまうあたりは、SF(すこし・ふしぎ、いや……すげえ・ふしぎ)テイスト炸裂。2頭のイルカはそれぞれ自らを「ファー」と「ビー」、ジェイクのことは「パー(=パパ)」と呼ぶ。イントネーションは片言英語というか、言葉を覚えたての幼児のごとく舌っ足らずな喋り方。ズルい。こりゃあズルい。もともとが愛くるしい存在なのに、可愛さ爆発である。しかもCGや特撮ではない、イルカの名アクターぶりには感心させられることしきり。撮影前に2年間の訓練を受け、尻尾のはね上げ、跳躍、立ち泳ぎなどをマスターした。さらにジェイク役の名優ジョージ・C・スコットの燻し銀の演技が加われば、他にもう望むものはない。

 最後に——。この映画、ぜひとも吹き替え版も観てもらいたい。なぜならば、イルカが喋るのである。アルファーが、「ファー パーが好き」と言いながらジェイクの足下に抱きつくのである。英語と日本語、イルカの声ワザを聴き比べてもらいたい。

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軍用イルカの存在は今も昔も知られているが、本作は、人間の言葉を喋るイルカの生態を利用した政治的陰謀という着想がミソ。もともとはロマン・ポランスキーが映画化を計画。その友人のマイク・ニコルズがメガホンをとった。原作は’67年に発表されたフランス人作家ロベール・メルルの同名小説。名作曲家ジョルジュ・ドルリューの美しいスコアを思い起こすだけで涙腺が緩む。

[週刊SPA!掲載]
●監督:マイク・ニコルズ●出演:ジョージ・C・スコット、他●1973年●アメリカ