読む映画リバイバル『ガール』

中平康の後継!? ワザ師礼賛!

(2012年6月下旬号より)

 50円玉が宙を飛ぶ。それを見上げる人々。場所はとあるオフィスなのだが、なぜ、そんな事態が起こっているのかの説明は今は省く。とにもかくにもその硬貨は、放物線を描きながら、落下し始めるだろう。

 はてさて。では宙を飛んだ硬貨が持ち主の手元に納まるまでに、映画はどんなことができるのか?

 観た。深川栄洋監督の『ガール』で試されていた手法を。「ほほぉ〜? そういう手で来ましたか」と思わずニンマリさせられた。つまりは、別の場所のシークエンスをそこに重ねてモンタージュし、ドラマチックに盛り上げ、同時に世界の広がりをも感じさせるカットバック、並行描写が採用されていたのであった。

 ちょっと、整理をしておこう。

 硬貨を投げたのは、本作の4大ヒロインのひとり、麻生久美子が演じた大手不動産会社勤務のOL。プロジェクトチームの一員でありながら足を引っ張り続けていた部下(要潤)との一対一の対決、50円玉の表裏で退社を賭け、それで自ら“丁半勝負”に出たわけだ。一方、カットバックされるのは、香里奈扮する大手広告代理店で働くヒロインの側の“丁半勝負”。デパートのエスカレーターを使ったファッションショーの様子が挟み込まれ、こちらもバタバタとトラブル込みで成否の途中にある。

 が、ここで喚起しておきたいのはカットバックの手法とはいえ、作り手たちの狙いはどうやら両者の相乗効果とは違うようなのだ。基は5つの短編から成る原作のエピソードのうち、4編をギュっとひとつの物語として再構成(脚本は篠﨑絵里子)。板谷由夏はシングルマザーで自動車メーカー、吉瀬美智子は文具メーカーに勤務する役柄で登場し、実は中盤からすでに各キャラクターの人生の勝負どころを捉える“並行描写”は始まっており、4者4様の喜怒哀楽を繋いだ“総体”こそが本作の魅力の源泉になっているのだった。

 もちろん、どの映画もそうであるように瑕瑾は散見される。特に開幕してしばらくは、浮ついた漫画的なノリに気が乗らない。だが、次第によくなっていく。最初の軽いノリが布石に感じられるほど、日常の重さが増していき、ヒロインそれぞれに配された、向井理、上地雄輔、要潤、林遣都、森崎博之ら「ボーイ」たちの映画になっているのもいい。とりわけ、妻(麻生久美子)より年収の低い夫(上地雄輔)の背中を作為的に映し出し、ラストまでなかなか心の内が読めないミステリアスな存在に仕立てたあたり、秀逸だ。

 どのキャストもこれまでとは違う顔を引き出されている。そして奥田英朗の原作の「キャリアウーマンの友情と恋愛模様」という主題のツボを押さえ、ラブコメの体(てい)を保ち、エンタテインメントしている。

 例の50円玉が持ち主の手に納まって、大きな勝負をくぐり抜けたあと。部下役の波瑠(放映中のNTTドコモのCM『dマーケット BOOKストア』でも新人社員を好演)と二人して安堵の息をつくエピソードも胸に沁みる。緩急のリズムが心地いい。何というか、往年の中平康みたいなワザ師ぶりと言ったら褒めすぎだが、確かなるテクニック、それが本作の“映画の肉体”を形成しているのだ。

[キネマ旬報掲載]
●監督:深川栄洋●出演:麻生久美子、上地雄輔、向井理、他●2012年●日本