読む映画リバイバル『生贄夫人』

再検!日活ロマンポルノ

役所広司、黒木瞳主演によるもう一つの『失楽園』を夢想する

(1997年8月号より)

 久木祥一郎と松原凛子。
 この二人の名にピンときたアナタは『失楽園』ブームの一端を担ってきた方なのだろう。原作を読んだか、はたまた映画版を観たか。それぞれの家屋を犠牲にし、真実の愛とやらに殉じていく男と女。映画ではシンシンと雪が降りしきる中、役所広司と黒木瞳扮する〈祥一郎と凛子〉の、その道行きを貫徹するラストがまた、とりわけ深い余韻を残していた。

 それはそれでいいのだ。そんな風に美しく人生を諦められたら実に悦ばしいことではあろう。本当に。

 ところがここに、心中をしたにもかかわらず、そうは簡単には美しく死なせてもらえなかったカップルが存在する。『生贄夫人』の東てる美と影山英俊扮する若きカップルだ。

 山中に、仲よく並んで仮死状態にあった二人。それまでさんざんヒロインの谷ナオミを責めまくっていた、サディスト男に見つかったのが運のつきだった。女のほうは死姦されて息を吹き返し、廃屋に連れていかれ、のちに男がそこに自力で辿りつく。

 谷ナオミはサディスト男に訊ねる。
「やっかいなお荷物を背負い込んだものね。なぜ助けたりしたの?」「妬ましかった……」「妬ましい?」「顔がね、笑ってたんですよ。幸せそうにね。まるでもう、自分たちの愛を信じきっているといった顔で……」「死人に嫉妬するなんて……あなたらしいわ」

 そうして縛られ泣きじゃくる女に、谷ナオミが駄目押しでこう云う。
「どうして死んでしまわなかったの。……これから生き恥をさらすことになるというのに……」

 男がハッと目を覚ますと、自らは柱に括りつけられ、そこには縄化粧の恋人が、例のサディスト男に浣腸を一発お見舞いされるところであった。「 ウッー」という呻き越えとともに恋人の目の前で失禁する女。

 ホント、死んでおけば良かった。

 それにしてもドリフのコントではないが、もしも祥一郎と凛子の心中現場に、このサディスト男が現れていたなら――雪の上の浣腸――。

 それもまた、もうひとつの失楽園と呼ぶべき光景かもしれない。

[ビエオボーイ掲載]
●監督:小沼勝●出演:谷ナオミ、東てる美、坂本長利、他●1974年●日本