伝説の監督、相米慎二って? ざざっと解説です!
一生モンの付き合いになる相米映画、他にはなかなかない
編集部からのお題はこうだった。「今、それでも相米映画を観るべき理由」。うーむ。なかなか挑発的だ。
その昔、『戦場のメリークリスマス』公開に合わせて某誌が出した増刊号が、「これでもまだ君は大島渚が好きか!?」というタイトルだったのを何となく思いだした──。
大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』(1983年)は、坂本龍一、ビートたけしが出演した、日本軍のインドネシア捕虜収容所が舞台の映画です。
ま、話をゆるやかに本題に戻すと、「今、それでも」の部分はよく分からないのだけれど、相米映画を観るべき理由といえば、「面白くて哀しくて圧倒的だから」としか言いようがない。全くもってミもフタもないが。
1990年代以降、日本映画には「松田優作の不在」がのしかかり、2000年代からは「相米慎二の不在」が加わった。
俳優・松田優作に関しての記事はこちらにあります。
しかし、居ないものは仕方ない。その現場を知る人々が、“相米イズム”を自分なりに受け継いで、後世に残していけばよいだけだ。
たとえば『台風クラブ』でダメ〜な教師を演じた三浦友和。『松ヶ根乱射事件』の山下敦弘監督、『転々』の三木聡監督はその芝居とキャラを愛し、自作に応用、三浦友和は、キネマ旬報ベスト・テンやブルーリボン賞で助演男優賞に輝いた。
『台風クラブ』は中学三年生の少年少女たちの青春群像。それまで好青年役が多かった三浦友和がイメチェンした映画でもありました。他に出演は工藤夕貴、大西結花、など。
さらに山下監督、『天然コケッコー』では佐藤浩市(『魚影の群れ』『ラブホテル』『あ、春』)と夏川結衣(相米プロデュースの『空がこんなに青いわけがない』で映画デビュー)を夫婦役でキャスティングした。
『魚影の群れ』は緒形拳、夏目雅子、佐藤浩市出演。マグロ漁師と漁師の娘との破格の恋愛ドラマ。
『ラブホテル』は日活ロマンポルノレーベル作品です。
佐藤浩市主演『あ、春』は、ある日、死に別れたと思っていた父親が目の前に現れるファミリードラマ。
『空がこんなに青いわけがない』は家族ドラマを描いた柄本明の初監督作。
これは山下監督本人から聞いた話なのだが、ヒロイン・そよ(夏帆)が神楽を見て泣く場面を撮る前日、部屋で『東京上空いらっしゃいませ』を観直したという。
『東京上空いらっしゃいませ』は相米慎二監督、笑福亭鶴瓶出演、ゴーストの身で再び地上に戻る女性に牧瀬里穂。彼女の映画デビュー作でした。
当日、注入した相米魂で“鬼”になったが、「その後、関係修復ができず、2日ほど落ち込んだ。自己嫌悪に陥るし、相米演出は体に悪い」と苦笑いしていた。
そういう意味では、『嫌われ松子の一生』で中谷美紀を罵倒しまくった中島哲也監督は、相米イズムの後継者かもしれない。
だが、TVに登場すれば中島監督は優しいし、話も愉しい。
あれは1998年、『あ、春』のPRでNHKの昼のトーク番組に出演したときのこと。仏頂面の相米さん、あまりに寡黙で、放送事故ギリギリ状態に。スリリングすぎ! 司会の堀尾正明アナの慌てふためき、泣きそうな顔が面白かった。NHKアーカイブスでの放映を望む。
一度だけ、女性を誘って相米映画を観たことがある。『魚影の群れ』だ。観終わってバツが悪かった。話が全然盛り上がらなかった。相米映画はデートには向かない。でも自分とは対話した。一生モンの付き合いになった。そんな映画、なかなかない。
「今、それでも」の部分は相変わらずよく分からないが、観られるべき理由はそこにある。
映画秘宝2008年12月号掲載記事を改訂!
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