ハリウッド黄金期へのオマージュが散りばめられたラブコメです、『マイ・ファニー・レディ』。
レビューにてご紹介です。
生くさい設定に監督ボグダノヴィッチの人生のいろいろを思う
人生いろいろ――と書くと、早くも「結論」が出た感じになって、島倉千代子のあの歌が頭の中でリフレインされてしまうわけだが、
ふとピーター・ボクダノヴィッチという監督の半生を振り返ってみるとやはりその言葉が浮かんでくるのであった。
キッカケは前作から13年ぶりの『マイ・ファニー・レディ』。
前作の『ブロンドと棺の謎』はキルスティン・ダンスト主演作。ハリウッドで実際に起きた、謎めいた船上の事件を描いています。
ニューヨークを舞台に、一介のコールガールから“ハリウッドの新星”へと転じていく女の子の成功物語と、裏側で蠢く素っ頓狂な人間関係を描いたコメディで、これがボクダノヴィッチの過去の「あれやこれや」を思いおこさせる仕上がりなのでした。
言ってみれば「ザ・ショービジネス界」といったお話で、笑いに全編包まれてはいるものの、相当に生臭い設定が用意されているのだ。
イモージェン・プーツ演ずるヒロインが高級ホテルのスイート・ルームで“お客”として出会うのは、ブロードウェイの人気演出家である。
オーウェン・ウィルソンがこの演出家に扮しているのだが、ホテルに到着したとき、ちらりと顔を見せるリモ・ドライバー役は何とグレイドン・カーター!
オーウェン・ウィルソンが出演した近作に『ワンダー 君は太陽』など。疾患で顔を27回手術した子供とその家族の物語。
政治経済、社会問題、ファッション、セレブのゴシップまで幅広く取り扱う総合誌、米国版「ヴァニティ・フェア」の名物編集長だ。
開幕早々、映画は「これからこんなふうに遊びまくりますよ〜」「スキャンダルネタもバンバンぶっ込みまっせ〜」と宣言しているのだと思う。
ボクダノヴィッチ自身、かつてはスキャンダラスな存在で、なかなかスゴいネタを提供していた。
本作の脚本、プロデューサーには元妻ルイーズ・ストラットンがクレジットされているが、もともとは姉のドロシーとつきあっていたんですね。
彼女が1980年度のプレイメイト・オブ・ザ・イヤーに輝き、惹かれて自作の『ニューヨークの恋人たち』にも出演させるほどゾッコンだったのだが、実はドロシーにはダニの如き夫がいて、あろうことか惨殺されてしまったのだった(夫のポール・スナイダーも自害した……)。
『ニューヨークの恋人たち』はオードリー・ヘップバーン主演作です。
ボクダノヴィッチは残されたドロシーの母と妹ルイーズを引き取り、身の世話をして愛情を注いだ。が、その方向性がスキャンダラスだった。
姉そっくりに整形させ、ルイーズが20歳のときに正式に籍を入れた。29もの年の差を超えて。
そもそも、ドロシーとつきあい始めた頃、彼には恋人がいた。雑誌の表紙で見初めて自作『ラスト・ショー』で女優デビューさせたシビル・シェパードだ。
『ラスト・ショー』は高校のフットボール選手ふたりのドラマを描いています。アカデミー賞で監督賞、作品賞を含む6部門にノミネートされ、助演男優賞、助演女優賞の2部門を受賞しました。
彼女はボクダノヴィッチの映画製作の盟友にして妻ポリー・プラットの座を奪ってしまったのだが、因果は巡る、ってやつである。
しかしそれでもシビル・シェパードは、本作にヒロインの母親役で出ている。
2001年に離婚したルイーズ・ストラットンともつながりがあるみたいだし、(名前は差し控えるが)豪華なカメオ出演も鑑みると、ボクダノヴィッチという人は皆から愛されているのがわかる。
むろん尊敬されるだけの映画的キャリアを持ち合わせ、プラス、「人生いろいろ」を経験した滋味が本作の素になっているのであった。
ケトル2015年12月号掲載記事を改訂!