これらの中から、2014年の2本の主演作『0.5ミリ』『百円の恋』についてと、そこから見える安藤サクラの、パフォーマーとしての凄みについて語ります!
ゾーンは『0.5ミリ』『百円の恋』から始まった
世には、季節はずれのサクラが咲き乱れていた。「安藤サクラ祭り」真っ只中の日本、2014年の歳末である。
——と、その名前に引っ掛けて、我ながら随分とベタな物言いを書きだしからヤラかしてしまったが、しかし本当のことなのだから仕方がない。
まずは彼女の姉、安藤桃子が監督した『0.5ミリ』が11月より全国順次公開され、12月20日から、武正晴監督の『百円の恋』が始まった(山口県内のみ先行で上映された)。
『0.5ミリ』は、安藤桃子が執筆した同名小説を自ら脚本におこし監督した映画です。
妹である安藤サクラが主演、父親の奥田瑛二がエグゼクティブプロデューサー、母親の安藤和津がフードスタイリストを担当しています。
また、安藤サクラの義父・柄本明と、義母・角替和枝も同作に出演しています。
何と主演作が連続で2本。それもどちらも2014年を確実に代表する作品で、切れ目なく役者として“自己更新”してゆく驚異的な姿を見ることができた。
この2作を追えば、「ゾーンに入った彼女」と同時代に生きている喜びを感じられるのだ。
『0.5ミリ』で演じた役を端的に説明しておこう。
放浪(さすらい)の“おしかけヘルパー”。 タフネスなヒロインで、数々のサバイバルを経験しつつ出会った人々すべての止まっていた時間を(少しずつだが)再び動かしてゆく存在!!
『0.5ミリ』は、国内の数々の映画祭で安藤サクラが主演女優賞を獲りましたが、同様に安藤桃子も監督賞も獲得しています。
で、続いて『百円の恋』では、くすぶって自分を持て余していたダメ女からリングへと上がるファイター、32歳にしてテストを受けてプロボクサーとなる「斎藤一子」という役。
もっと言えば必ずや、観る者の胸の芯に、闘魂の火を点けるキャラクターだ。
共演者の新井浩文が、先に開催された東京国際映画祭で彼女のことを(個人的な意見と断ったうえで)「女優として今、日本でナンバー・ワン!」と絶賛していたが、そう評したくなるのもわかる。
ちなみに『百円の恋』は、東京国際映画祭の公式部門「日本映画スプラッシュ」にて作品賞を獲得。ひとつ、弾みがついた。
あとは劇場をみんなで満席にして、彼女の胸熱な闘いを鑑賞ならぬ“観戦”するだけだ。
4年前、仕事のなかった武監督と脚本家の足立紳が一念発起、「なけりゃ自分たちで創りだすしかない」とオリジナル脚本を完成。
だがだからといってすぐに映画化が実現するわけなどなく、そのまま日の目を見ずに消えてなくなりそうな状態に。
2012年、新設の脚本賞「松田優作賞」に足立紳が独断で応募すると起死回生で第1回グランプリを受賞、そこから企画の芽がようやく顔を出し、それでもシューティングに漕ぎ着けたのは今年の7月のこと。
オーディションで役を勝ち取った安藤サクラは、デブの引きこもり女とプロボクサー、その両方を全うした。過酷な肉体改造によって。
例えば『野獣死すべし』で松田優作が役のために10キロ痩せ、歯を4本抜いた逸話があるが、しかと彼女は “優作の志”を継承している(それから忘れちゃいけねえ! 新井浩文も!!)。
松田優作のすごさはこちらのレビューで語ってます!
劇中、シャドーボクシングに励む「斎藤一子」。仮想の敵を想定して。
が、相手は実はもうひとりの自分だ。拳を繰りだす影の中から浮かびあがってくるのは、乗り越えるべき自分なのである。
満開の花、映画の華、スクリーンに乱れ咲く安藤サクラが、身をもってそう教えてくれる。
ケトル2014年12月号掲載記事を改訂!
『0.5ミリ』のレビューはこちらにもあります。