復刻インタビュー【BEAT TAKESHI KITANO=ビートたけし・北野武】アート語り

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館理人
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北野武さんがアートについて語ってくださったインタビュー記事を復刻です!

館理人
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2012年に東京でご自身のアート展を開催されたタイミングでお話をうかがったものとなります。

公式HPより
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ちなみにこちらのカタログは2016年に開催されたアートたけし展のもの。

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インタビュー

(取材・文 轟夕起夫)

BEAT TAKESHI KITANO

 2010年、フランス・パリで、われらがビートたけしが、現代アーティストBEAT TAKESHI KITANOとして初の個展を行った。カルティエ現代美術財団の展示施設を一大テーマパークに変え、パリの老若男女はもちろん、各国から観覧者を集め、約13万人を魅了、当初3ヵ月の会期を半年間ものロングランにしてしまった。

 その2年後、2012年に東京オペラシティ アートギャラリーにて開催された『BEAT TAKESHI KITANO 絵描き小僧展』では、ほぼ同じ構成が再現された。凱旋、まさしく「キッド リターン」である!

北野 この個展を通して、アートって言葉に、もっと別の意味をもたらせたらいいなって思う。アートって特別なものじゃなく、型にはまらず、気取らず、みんながすっと入っていきやすい、気軽なものであるべきだと思う。日本開催が実現できてうれしいし、ぜひ多くの方に楽しんでもらいたい。

アートは本来無くていいもの

 なるほど。アートだからって、肩ひじ張る必要などないのだ。ですよね?たけしさん。

北野 そう。アートなんか本来、無くってもいいものなんだからさ。おにぎりとゴッホの絵画、腹が減ってる人がどっちを選ぶかっていったら、おにぎりに決まってる。でもね、平時にはアートみたいに何の役にも立たないものを作るのが、人間、一番楽しいんだよね。

 1994年のバイク事故以降リハビリを兼ねて絵を描き始め、『HANA-BI』『菊次郎の夏』『アキレスと亀』など、自ら監督した映画の中でもそれらは折々に発表されてきた。

 ネーミングどおり、BEAT TAKESHI KITANOとは、ビートたけしと北野武の合体物である。つまり遊び心とオルタナティブな作家性とが融合した才能なのである。

 たとえば、自身の脳を手に乗せた等身大人形《オレを見ているオマエは誰だ?》や、ギャグ連発のオブジェ《日本初の絞首刑で死ななかった男》にしても、ニヤっとさせ、同時に、ドキッとさせる。

解釈の面白さ

北野 やっぱり、くだらなくて、バカバカしいのがいいよね。ただ見ようによっては、けっこう意味深でもあって。絞首刑のやつは一体、最高刑とは何なのかと考えるかもしれないし、カタログの表紙にもなったクジラの体内でお茶を飲んでいる男女の絵なんかは、クジラとの共存と言うことはできるけれど、クジラに食われちゃっているんだからコトは単純ではない(笑)。そんな風に観る側の立場、感性によっていろいろと解釈できるのが面白い。

 眠れない夜、眠りたくない夜に、絵の具や鉛筆を使って描いてきた絵画。さらに、巨大な足がペダルを踏む機関車型ミシン《北野式ソーイングマシン『秀吉』》のようなパリで生み出された大作、観客も体験できる参加型作品など、バラエティに富んだアートの世界が会場には広がっている。

 精神の底にあるのは万能人=レオナルド・ダ・ヴィンチの活躍したルネサンス期、その気風が好きだという。

アートと数学

北野 かの大芸術家たちって科学者でもあってね、アートと数学には密接な関わりがあるんだよね。実際、オイラでも3次曲線を使ってオブジェを作ると入り組んだ妙な形ができて、それが意外にすごいんだ。たまにアントニオ・ガウディの建築みたいな形になったりしてさ。

ガウディは自然のフォルムの美しさを出そうと、幾何学上の計算をもとに設計していたと思う。ダ・ヴィンチの時代、ルネサンス期に術家はひとつの分野にとどまらず、多彩な活動をしていた。だからね、今みたいに文科系と理数系に分けるのは絶対おかしいんだよ。アートにも理数系の知識は必要だし、数学にも超自然的な感覚を取り組むことは不可欠。

まあ、自分の場合は、いろいろ肩書きを持ってはいるんだけど、何ひとつ誇れるものはないな。漫才が特別巧いわけでもないし、映画監督も役者も小説とかもみんな大したことないんだけど、10種競技みたいなもので、総合でビートたけし、として全部をまとめると、少しは価値があるという。

今回の個展も、しいてどれということではなく、全体的に眺めていただいて、感覚的に遊んでもらえたら本望だね。

 万能人なのに偉ぶらず、むしろ謙虚である。自身の絵については、こうも評する。

5、6歳の子どものアート

北野 キャンバスにアクリル絵の具で描くのは、油絵だと時間がかかって乾燥するのを待ってられないから(笑)。ドライヤーの熱風で乾かせるのがいいの。アクリル絵の具はたくさんの種類があって、混ぜたりするのも手なんだけど一切やらない。シンプルな色合いを好む、というのは建前で、技術がないんだな。シンプルといえば、突き詰めていくとやっぱり5、6歳の子どもが描いた絵が一番上手かったりするよね。色づかいに勇気を感じる。そこは敵わないなあって思う。そんな子供たちが成長し、大人になるにつれて、なんで当たり前の絵を描くようになってしまうんだろうか。

 謙遜してはいるが、稀有なことに“キッド”の部分をBEAT TAKESHI KITANOは持ち続けている。実は『キッド リターン』とは、1986年にビートたけし名義で出した詩集のタイトルなのだが、その永遠の少年性は版画にも見ることができる。

 版画はパリの展示ではなかった新作で、東京の凱旋展ならではの初公開の作品。

版画の魅力

北野 裏手彩色と呼ばれる技法で版画を制作されている沖縄の名嘉睦稔さんを、仕事で取材をしたんだけど、後で版画の道具を贈ってくれて、それでやってみたんだ。何が面白いって、あれはバレンでこすって裏から色を塗り付けてからゆっくり剥がしていくんだけど、開けてゆく瞬間のドキドキ感ね。あのドキドキの快感のために版画ってやってるんじゃないかと思う。偶然性というか自分のコントロールを超えた色が出てくるのがいいんだな。

 その 仕事とは、2011年の4月からー年間、NHK BSプレミアムで放送された『たけしアート☆ビート』。メイン司会を務め、会いたいアーティストのもとへ、国内のみならず世界各地を訪ね歩いていた。アートの醍醐味とは、映画監督のそれとはまったく違うよう。

北野 映画の現場はね、撮りながら次のカットをどうしようかと焦り、編集のやり方まで探りながらやるのが楽しい。一方、絵画は先々のことなんか考えず、今という一点に集中できるのがいいね。時々、下絵を描きながらポトってヨダレが落ちるときがあるんだ。ずいぶん一所懸命やってんなあ……無我夢中、なんだなあって、我に返るときがあるよ。

 そう喜々として語る目の前の傑物は、やっぱり絵描き小僧の顔をしていた。

轟

ウレぴあ2012年夏号掲載記事を再録です!

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