サッカー好きで、欧州サッカー、またはドイツのブンデスリーガに興味ありならおすすめ! 『コッホ先生と僕らの革命』ドイツ初のサッカーチームを結成した、ドイツサッカーの父、コンラート・コッホを描いた映画です。
データ
(2012年)
原案:セバスチャン・グロブラー、ラウル・ライネルト
脚本:フィリップ・ロス、ヨハンナ・シュトゥットゥマン
監督:セバスチャン・グロブラー
出演:ダニエル・ブリュール、ブルクハルト・クラウスナー、ユストゥス・フォン・ドーナニー
レビューをどうぞ!
ボールを蹴る楽しさの先にあった、自由と自立と希望
(文:轟夕起夫)
観終わったあとの、体の芯がキュっと熱くなるこのカンジ! サッカーが物語の核になっているので、こう喩えてもいいかも。『コッホ先生と僕らの革命』は、ハートの奥のゴールネットを大きく揺さぶる映画──だと。
時は1874年。イギリス留学を終えて、ドイツの母校に赴任したひとりの青年が登場する。彼の名は、コンラート・コッホ(1846〜1911年)。のちにドイツにおいて「サッカーの父」と称される人物である。ということは、映画の舞台となっている1874年にはまだ、ドイツでは、サッカーは全く市民権を得ていなかった史実がわかるだろう。
では何が主流だったのか。1870年代初頭、フランスとの戦争に勝利した帝政ドイツの人気スポーツは「体操」だった。学校の体育でも、将来の軍人を育てるために器械体操は必須科目であった。
そんななか、コッホ先生は、ドイツ帝国の厳格な名門校にサッカーボールを持ち込む。そしてドイツ初の「英語教師」(という設定)の彼は、「私はボールをゴールに蹴ります」と生徒に英語で言わせながら、体育館でボールを蹴らせるのだ。
軍事教練としての体育に辟易していた子どもたちは、ひとときの解放感を味わい、ボールを追い、それを蹴る楽しさに目覚めていく。熱血教師コッホに扮したのはダニエル・ブリュール。といえばあの『グッバイ、レーニン!』での名演、昏睡から意識を取り戻した母親に、ベルリンの壁崩壊の事実を隠し通そうと奔走する青年役が思いだされるが、『ボーン・アルティメイタム』や『イングロリアス・バスターズ』など国際的にも活躍。
『イングロリアス・バスターズ』はクエンティン・タランティーノ監督、ブラッド・ピット主演の映画!
『『ボーン・アルティメイタム』はマット・デイモン主演の「ジェイソン・ボーン」シリーズですね!
スペイン生まれで、プライベートでもサッカー好き。名門FCバルセロナが贔屓のチームのよう。監督は、幼少期からサッカー経験のあるセバスチャン・グロブラー。こちらはハンブルグの生まれで、卓抜な“フェイント”を使って、自国ドイツの歴史を見つめ直した。
ここでの“フェイント”とは映画ならではのフィクションのこと。たとえば、実際のコッホは留学生ではなく、ドイツの大学都市ゲッティンゲンで神学や哲学を学び、母校のカタリネウム校に赴任している。また、軍医の義父がイギリスを訪れた際にサッカーボールを持ち帰って、その影響を多大に受けたのだった。
とはいえ1874年、彼が英語のルール本をドイツ語に翻訳、生徒たちとドイツ初となるサッカーチームを結成したのは厳然たる事実で、映画から広がる雑学、トリビアも興味深い。
さて、コッホの型破りなやり方は多くの敵を作ることとなり、規律と慣習に囚われている教師や親、地元の名士はあの手この手でコッホを学校から排除しようとする。一方、生徒側は「強制と服従」を強いる社会と相対し、自立を促されてゆく。
本作は単なるサッカー映画ではない! 現代にまで通ずる、自由についての映画なのだ。さまざまな立場の子どもたちが一緒になってプレーするクライマックスの試合、涙を禁じえないのは、フィールド上にだけ束の間、「格差のない平等な社会」が実現するからだ。サッカーとは今も、そんなユートピアな世界を掻き立てるスポーツである。
東映キネマ旬報2013年夏号掲載記事を改訂!
欧州のサッカー映画はほかにこんなのも!『ディディエ』レビューはこちらです。