ハマる監督、デヴィッド・クローネンバーグの映画です。
レビューをどうぞ!
精神分析学の巨匠と、女性患者の数奇な物語
【概要】
精神病院に入れられたザビーナは、フロイトの談話療法を応用したユングに、「幼少時、父親に折檻されるたびに性的興奮を覚えた」と告白し、やがて恋愛関係に。20世紀初頭、第一次世界大戦前夜。精神分析学の礎を築いたふたりの巨匠と、その間を繋ぐ女性患者の数奇な物語が展開してゆく。
2011年 イギリス、ドイツ、カナダ、スイス 1時間39分
監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:キーラ・ナイトウェイ、ヴィゴ・モーテンセン、マイケル・ファスベンダー
【レビュー】
精神と肉体と無意識の“アンバランス劇場”ーー監督デヴィッド・クローネンバーグの映画世界をざっくり説明すれば、そうなるか。
もともと、精神分析や心理学になじむテーマを好んで描く作家であったが、ついに『危険なメソッド』では、精神分析の創始者ジークムント・フロイトと、分析心理学の開祖となるカール・グスタフ・ユングの実話ドラマへと行き着いた。
両者は文通で交流を始め、1907年に顔を合わせ、緊密な師弟愛を築いて疑似父子的な絆も結ぶのだが、数年後には互いの理論の違いから決別した。
ここで印象的なシーンをひとつ。フロイトの書斎で対話中のこと。「パチッ」と突然起こったラップ音に対し、ユングはこれを外在化現象=ポルターガイストだと主張する。事前に横隔膜が熱くなったという彼は、本棚が音を鳴らすのを予知していたと言い、結果、科学的論者フロイトに一蹴されてしまう。
フロイトを演じたのはヴィゴ・モーテンセン。で、マイケル・ファスベンダーがユング役に。クローネンバーグが以前ヴィゴと組んだ2本、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』とは違って、過激な表現は極力抑制されており、このラップ音対決も、静かなやりとりに終始する。
『イースタン・プロミス』のレビューはこちらにあります!
が、しかし、ふたりの内面は相当ドロッドロ。つまり、本作でのクローネンバーグ演出は、あえてさざ波によって、穏やかな湖畔の底で蠢いている怪物の姿を想像させるのだった。
そんななか、従来のクローネンバーグ映画らしい異人も登場する。フロイトとユングの生涯に大きく関わった女性、ザビーナ・シュピールライン。扮するキーラ・ナイトレイの、冒頭、ヒステリー患者として精神病院に連れてこられて苦痛に歪む顔、内面が外在化したポルターガイスト顔からして仰天。
実はこの映画、フロイトとユング以上に、彼女のアンバランス劇場と言っても過言ではないのであった。
(轟夕起夫)
週刊SPA!2013年6月25日号掲載記事を改訂!