フジテレビの連ドラのうち、月曜9時から放送されていたドラマが「月9」です。他のテレビ局で月曜9時から放送されていたドラマを月9とは呼びません。特別の存在感を放った枠でした。
月9の黄金期は1980〜90年代。リアルタイムで見ていた人以外は、この時の注目度が想像つかないかもしれないですが、ものすごいのです。流行を作っていました。
そんな時代を軽く振り返りつつ、その後の月9についても語るレビューです。
なお、登場するドラマタイトルのうち、「ビーチボーイズ」「東京ラブストーリー」「ひとつ屋根の下」「妹よ」「いつかまた逢える」の5つについては、
で見ることができます。
華麗なる月9
今から考えればとても貴重な体験だった。1996年から97年にかけて、〈月9〉ドラマのキャストやスタッフに取材する機会を連続して得たのだ。
ライバルはレンタルビデオショップの洋画
まずは「ロンバケ」こと「ロングバケーション」(1996年)の製作発表に出席、ヒロインの山口智子を囲む記者たちの輪のなかに交ざった。
プライベートを詮索する芸能レポーターの質問に、毅然と接する彼女の姿勢が実にカッコ良かった。
「ビーチボーイズ」(1997年)放送前にはこの方、亀山千広プロデューサー(現・BSフジ代表取締役社長、2020年8月現在)と一対一で。
ビーチボーイズの主演は反町隆史と竹野内豊、ほかに広末涼子、マイク眞木、稲森いずみなど。恋愛ものを連打していた月9では珍しく、男の友情ものでした。
「ライバルは他局のドラマではなく、巷で人気のレンタルビデオの洋画」という発言が一際印象に残っている。当時の気概を端的に表していて。
この時期、まだ動画配信サービスはなく、映画館以外で映画を見るには、レンタルビデオショップでDVDを借りるのが主流でした。
「ラブジェネレーション」(1997年)ではこれまたヒットメーカー、永山耕三ディレクター(現・フジテレビジョン役員待遇、2020年8月現在)に。
「ラブジェネレーション」=「ラブジェネ」は主演に木村拓哉と松たか子。ほかに純名里沙、藤原紀香、森口瑤子、平田満など。主題歌は大瀧詠一「幸せな結末」。
永山ディレクターは「ロンバケ」だけでなく「東京ラブストーリー」(1991年)、「ひとつ屋根の下」シリーズ(1993・1997年)、「妹よ」(1994年)、「いつかまた逢える」(1995年)などを手掛けていた敏腕だ。
「ひとつ屋根の下」から4年後に「ひとつ屋根の下2」も放送されました。主人公のせりふ「そこに愛はあるのかい?」が流行語に。出演は江口洋介、福山雅治、酒井法子、いしだ壱成、山本耕史、ほか。
「映像作品は『ロッキー』(1976年) のように、音楽の入れ方が重要」と語っていたが、「ラブジェネレーション」の主題歌と挿入歌は大瀧詠一の「幸せな結末」と「Happy Endで始めよう」、音楽担当は「ロンバケ」に続いて日向大介率いるCAGNET。言うまでもなく鉄板であった。
オンエア時、どれも全話を追いかけ、大いに楽しんだ。あの頃は〈月9〉の、黄金期(のひとつ)だったと思う。受けとる側もちょっと、過剰なくらいに期待値を上げてテレビの前に座っていた。みんな、そういう生活スタイルであったのである。
黄金期以降の月9
それから時は流れ流れて。狂熱の季節はとうに過ぎ去った……はずだったのだが、個人的に2011年は、〈月9〉ドラマへと回帰した年となった。
1〜3月は、戸田恵梨香と三浦春馬が同じ学校の教師カップルを演じ、教え子の武井咲の小悪魔ぶりに翻弄される「大切なことはすべて君が教えてくれた」にハマリ、完走した。
スキャンダラスな題材で引きつけ、回を重ねるごとにキャラクターそれぞれの純度を増し、テーマを絞り込んでゆく作劇。
主演の二人は成熟しきれていない大人の役が新鮮で、武井咲はダイヤモンドの原石登場!といった感じ。生徒役には他に剛力彩芽、菅田将暉、広瀬アリス、中島健人、能年玲奈(現・のん)らが配されていて、その後の躍進はご存じのとおり。特に終盤2話が秀逸で、三浦春馬と武井咲の、札幌行きの寝台特急・北斗星での別れと自立のシークエンスが深く胸に響いた(演出は西浦正記と葉山裕記)。
次の1クールはお休みして、7〜9月は新垣結衣と錦戸亮が共演した「全開ガール」を。セレブ志向の弁護士と定食屋のコック、立場の違う、しかも最悪な出会い方をした二人が次第に惹かれ合っていく王道ラブコメディだが、男が元妻の残していった息子と暮らすイクメン要素も注入されており、ここではユーティリティプレイヤー、助演の蓮佛美沙子がとりわけ光っていた。
そして10〜2月には、香里奈、吉高由里子、大島優子の働く女性たちがルームシェアを始める「私が恋愛できない理由」。注目したのは第3、5、7、9話のサブ演出だった並木道子の手腕だ。
〈月9〉はすでに「流れ星」(2010年)で経験済みだったが、木曜劇場「それでも、生きてゆく」(2011年)で激しく唸らされたのだ。
「流れ星」に出演は竹野内豊、上戸彩、松田翔太、北乃きい、稲垣吾郎、ほか。主題歌はこぶくろ「流星」
以降も「最後から二番目の恋」(2012年)、「最高の離婚」(2013年)、「問題のあるレストラン」(2015年)と実力を発揮。今や完全に〈木10〉のエースである。
作品を通じて新たなる胎動、キャストやスタッフが飛躍してゆくさまを追いかけ続ける面白さ。それをあらためて思い起こした1年であった。
〈月9〉の(何度目かの)黄金期は、これからかもしれない。
キネマ旬報NEXT2015年7月号掲載記事を改訂!
「月9」黄金期の連ドラが充実のフジテレビ公式動画配信サービス「FODプレミアム」についての記事はこちらにあります。