「ありゃま、こら、どーしたことだ」「なんてぇことを言ったりしてからに」…神業フレーズの数々、声の魔術師!インタビューでたどる【声優・広川太一郎】の仕事!

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番組表の声の出演欄に、その名が載っていると1〜2%は確実に視聴率が上がった声優、それが広川太一郎さん。例えばトニー・カーティスとロジャー・ムーア。ダンディで軽妙なアクターならおまかせ。吹き替えの世界にフリーキーな面白さを確立した革命児! 

館理人
館理人

インタビューを交えた蔵出し記事で、かの大スター声優・広川太一郎をご紹介!

インタビューは2002年に行われたものとなります!

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プロフィール

ひろかわ・たいちろう(1940年2月15日ー2008年3月3日)
東京都出身。声優、俳優、ラジオDJなど。日本大学芸術学部卒業後、舞台俳優を目指すが、東北新社で洋画の吹き替えの仕事をしたことをきっかけに、声優の世界へ。『ローマの休日』『空飛ぶモンティ・パイソン』『Mr.Boo!』シリーズなど多くの映画、TV作品を担当した。

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インタビュー〜視聴者を魅了する広川節の秘密

自分が芸能人って意識なんて、全くもってないですね

ーーTVで放映された『ワイルド・ワイルド・ウエスト』。ケネス・ブラナー扮するマッド・サイエンティストの役で、広川節の片鱗が楽しめました!

「ところどころ、僕らしさをまぶしてね。演出家が若い女性で、いろいろと試してはみたんだけど、あまり枠を突破らうのはちょっと、って言われて(笑)。もう少し遊んでみたかったよね」

ーーそもそも、広川さんの言葉遊びの原点ってなんだったんですか?

「僕ら日芸の、落語研究会の創始者なんですよ。一口噺とか、ああいうものをよくやってたの。で、もう亡くなっちゃったんだけど当時、落語家の柳家つば女さんが真打ちになる前で教えに来てくれていて、僕らが作った一口噺をマクラとして高座にかけてくれたりしてね。それで『広川くんあれウケたよ』なんてことになると気をよくしてちゃってさ(笑)。

だから原点は落研かなあ。オヤジギャグや駄洒落じゃなくて、昔からある言葉にフリカケをすることで、今に蘇らせたいんですよ。たとえば“けっこう毛だらけ猫はいだらけ”って言葉のあとに、“サハラ砂漠は砂だらけ”って繋げると、なんだか面白いセンテンスになるでしょ。そういうことを続けていきたいんですよね」

ーーまるで感覚がラッパーですよね!

「実際、ミュージシャンやラッパーの中には僕のファンが多いらしいね。ミスチルの桜井くんに頼まれて一度TVスポットのナレーションをやったし、かせきさいだぁのラジオCMも毎回担当してるし」

ーーきっと、“一芸”を持ったアーティストだからリスペクトされるんでしょうね。

「いやいや、僕は“日芸”ですってば(笑)。ま、どこか青臭い部分がまだ残っていて、自分でも信じがたいような反骨精神が脈打っていたりする。インディーズ魂というと大袈裟だけど、こういう流れで来ちゃったから、それを貫き通すのが僕の生き方かなあという感じなんですけどね」

顰蹙買いながらも、面白くしたいから続けてきたんです

ーーず〜っとフリーで仕事をされてきた広川さんですけど、それはポリシーで?

「いや。流れで、たまたまそうならざるを得なくなっただけですよ。本当はね、舞台の役者さんになりたかったの。で、日芸の演劇科を出て、当時の3大劇団、文学座、俳優座、民藝なんかをちょっと覗かせてもらったんだけど、あれって研究生にならなきゃいけないでしょ。そんなの今さらやりたくなかったし、あと、ちょっと口幅ったい言い方だけど、新劇の社会が芸能化してる感じがしてね。なんかケツの穴の小っちぇ世界だなあ、と思ったんだ(笑)。

それで躊躇していたら、東北新社っていう洋画の吹き替えの演出部に声をかけてもらって、チョコチョコっと仕事をやり始めたのが最初かな」

ーーそのあと、『男はつらいよ』をはじめ、松竹の映画やTVドラマに何本か出てらっしゃいますよね。キッカケは?

「たしかスカウトですよ。アフレコの仕事をやっていたら、スタジオに松竹関係のプロダクションの人が来て、やらないかと。僕は『時間が空いているときなら可能です』と返事をしたんだけど、向こうは松竹専属にOKした、と受け取ったみたいでね。

でも僕は、契約金なんて一切貰っていない。何作かは都合がついて出たものの、突然「一週間地方ロケに来てくれ」って言われて、こっちは属してないわけだし、『急で無理なのでデキません』ってお断わりしたら、コジれてモメちゃって(笑)。それでモタモタしてるうちに自然消滅しちゃったんですよ」

ーーアフレコの仕事のほうを取ったと!

「うん。ポっと出の新人としては、そこそこの役をフってくれてたんだけどねぇ。劇団やプロダクションに所属していればスケジューリングとか管理してもらえていたんだろうけど、そういう意味では浮き草みたいに自由にやってきた。自分でも今日までよく、ひとりでやってこられたなあという気がします(笑)」

構成作家のギャランティをもらってもいいかもね

ーー収録前は徹夜で台本にネタを書き込んで、常に真っ黒になっちゃうそうで。

「うーん、そうね。それに近いことになるね。フレーズを考えあぐねたりなんかすると、ま、徹夜というのはオーバーだけど、時間はかかりますね。最近はTVのアフレコは少なくて、ビデオ化のときに時々。ここ2、3年では『Mr.ビーン』『レスリー・ニールセンの裸のサンタクロース』や『どつかれてアンダルシア(仮)』なんて楽しくできたね」

ーーあ、最後の作品は“ドツく”ほうの役で?

「ええ。相手役は先輩の青野武さんでしたよ」

ーーわっ、『空飛ぶモンティ・パイソン』の名コンビ! 今でこそ、あの吹き替えは名作とされていますけど、当時はけっこう賛否両論でしたよね。

「僕の仕事はいつも賛否両論(笑)。ま、『モンティ・パイソン』は、英国人ならパロディが笑えるけど、そのままやっても日本人には笑えないですよね、特に宗教関係のネタなんて。放送作家の人が面白おかしくアレンジメントしようとしたんだけど土台無理でね。我々、アフレコを任せられた者としては、日本人が聴いてとりあえず笑えればいいじゃないかってね。てことでもって、すっかり台詞を変えたところもありました、部分的には」

ーーそうやってあの広川節が生まれた?

「間の合わない部分を何とか埋めようとね。ブレスはマチマチだし、中には4ページ分ぐらいひとりで喋らなきゃいけないし。勝手にワンフレーズ加えて、頭と最後揃えばいいやって(笑)。でも楽しんでたというよりも、何だかスターターがピストル鳴らし、どこだかわからないゴールをアスリート選手が探して走ってるような……そんな体力勝負の作業でしたよ」

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広川太一郎の仕事(のほんの一部)

俳優業

『男はつらいよ』

記念すべきシリーズ第1作。寅さんの妹さくらの見合い相手で広川さんは登場する。社長の息子という役で、トニー・カーティスばりの2枚目だが、同席した寅が酒に酔って縁談をぶち壊す。

〈広川解説!〉「昼飯のときに呼ばれて、誰かと話しをした。それが山田洋次監督だったのかもしれないけど覚えてない。で、『とにかく衣装部屋に行って』って言われて出ちゃった。ま、何だかあの時期の僕は、僕じゃないって感じがするんだよねぇ。だいたいこれに出てるの、人に言われるまで忘れてたんだから(笑)」

声優業(洋画吹き替え)〜広川節全開!

『Mr.Boo!ミスター・ブー』&『Mr.Boo!』シリーズ

監督・脚本・主演は香港アホアホ大将マイケル・ホイ。実兄弟のサミュエル・ホイ、リッキー・ホイも準主役で出演の脳天コメディ! 『Mr.Boo!ミスター・ブー』がヒットしたことで、企画の違うマイケル・ホイ作品に『Mr.Boo!』の冠をつけたタイトルで公開したため、シリーズで括られるが実は別もの。とはいっても、ホイ兄弟の役柄は似通っており、吹き替え版で泣く子も笑う!広川節マイケル・ホイを堪能できる。

〈広川解説〉「当時は最新流行を取り入れてアレンジメントしてたから、あとで聞くと当時の世相がわかります、ってほどでもないけど(笑)。時代の一端は聞けますよね」

『キャノンボール』

ルールなし、妨害自由のアメリカ大陸横断カーレース! 各国の有名スターが出演したお祭りムービー。広川さんが吹き替えを担当していた『Mr.Boo』のマイケル・ホイと『007』シリーズのロジャー・ムーアが共演しているため、広川さんはなんと二役を!

TV&映画『モンティ・パイソン』関係

モンティ・パイソンは、イギリスのTV番組で活躍した破壊力抜群のコメディグループ。広川さんはエリック・アイドル役でマシンガン馬鹿トークが冴え渡ります。ちなみにTV版『空飛ぶモンティ・パイソン』の日本語版監修は景山民夫。声優陣も山田康夫、納屋五郎、青野武、古川登志夫というスーパーな顔ぶれ。

『クイーン・コング』

『キングコング』のパロディ映画。アマゾンの奥地から都市に連れてこられた巨大メスゴリラの恋と冒険をチープな映像で描く。封印されていた珍作が、広川さんのミラクルボイスで「超訳日本語バージョン」として世に放たれた、“広川太一郎主演”映画と言える1本。

〈広川解説〉「吹き替えないとコレって、面白くもなんともないワケですからね(笑)。もう少し丹念に練って、精度の高いものにしたかったんですが……(笑)」

『お熱いのがお好き』

ビリー・ワイルダー監督の映画史上の名篇。女装したトニー・カーティス&ジャック・レモン、歌手役のマリリン・モンローが弾けまくる! また、吹き替え映画の名作でもある!

〈広川解説〉「トニー・カーティス役と出会ったのが大きかった。登場シーンの1/3くらいはハリウッドコメディの典型的な2枚目半のキャラで、これは遊べるぞ、とね」

『ダンディ2 華麗な冒険』

このインタビュー時にもチラリと話題になったTVシリーズ『ダンディ2 華麗な冒険』(1971〜72年)。トニー・カーティスとロジャー・ムーア共演の英国製傑作ドラマで、吹き替えはカーティスを広川さん、ムーアを佐々木功(現・ささきいさお)さんが担当、絶妙な掛け合いを! 取材の翌年、コンプリートDVD-BOXが発売されました。

声優業(アニメ)〜存在感抜群キャラ

『チキチキマシーン猛レース』

野沢那智のナレーションと、ブラック魔王&ケンケンの悪漢脱線コンビで知られる名アニメ。ほかにも個性派ぞろいのメンバーだが、レースカーに乗っているハンサムなキザトト君の美声が広川さん。実はこのアニメ、トニー・カーティス主演の冒険映画『グレートレース』が元ネタ。てことで、吹き替えも「広川つながり」。

『名探偵ホームズ』

宮崎駿が監督と絵コンテを担当。TV朝日系で放送された傑作シリーズ。『風の谷のナウシカ』公開時に劇場版として併映もされた。キャラクターデザイン&作画監督は近藤喜文。広川さんはモダンで快活なホームズ役を颯爽と演じ、推理力の切れ味とともに目と耳に心地好い印象を残す。他の声優陣も豪華で、助手のワトソンが富田耕生、モリアーティ教授が大塚周夫、ワトソン夫人が麻上洋子。

(取材・文 轟夕起夫)

館理人
館理人

『ムーミン』のスノーク、『あしたのジョー』のカーロス・リベラ、『宇宙戦艦ヤマト』の古代守……他にもたっくさんの印象深いキャラを演じています!

轟

ビデオボーイ2002年12月号掲載記事を改訂!