鈴木清順監督作が色褪せないのは、そのぶっ飛んだ!映画がユニークで唯一無二のものだから。
清順映画群の中で「浪漫三部作」と言われる3作品をまとめて紹介するレビューを蔵出しです。
大正浪漫三部作は清順宇宙!
世代を超えて熱狂的なファンに支持され、世界のクリエイターたちにも多大な影響を与え続けている鈴木清順監督。なかでも『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』は、通称 (大正)浪漫三部作と呼ばれており、そのアナーキーな江戸前ぶりが全篇に炸裂している。
『ツィゴイネルワイゼン』原田芳雄
原田芳雄、藤田敏八、大谷直子、大楠道代らが揃い踏み、1980年に公開された『ツィゴイネルワイゼン』は、幽明界を異にしない怪奇幻想譚。回るレコード。聞こえるはずのない演奏者サラサーテの肉声を聴いてしまう冒頭から、生と死の境界線は溶解してゆく。旨いが食すと発疹の出る「腐りかけの水蜜桃」のエピソードが印象的であるが、この作品自体、腐りかけて熟した映画の美味をたんと味わわせてくれる。
『陽炎座』松田優作
翌1981年に発表された『陽炎座』は、泉鏡花の原作をもとにしたもの。“清順美学”はますます過激に妖しく! 松田優作扮する新派の劇作家が、謎の女を追いかけていくうちに現実と異界をさまよい、世界の表裏を覗くことに。この撮影が終わったあと、優作は「どこへ行ってきたのかわかんないけど、ちょっと旅してきたって感じだね」とのたまったが、まさしく観る者をトリップさせる映画だ。大楠道代、加賀まりこ、楠田枝里子と、本作でも女優陣は艶やか。
『夢二』沢田研二
そして1991年公開の『夢二』。沢田研二が演じた画家・竹久夢二の漂泊を華やかに、また軽やかに。夢二はさまざまな女たちと関係を持つのだが、毬谷友子、宮崎萬純、広田玲央名、大楠道代らがオンナを競い合い、歌舞伎界の名優・坂東玉三郎も出演。殺人鬼役で(あの『太陽を盗んだ男』の監督)長谷川和彦が登場し、撮影前に勝手に髪の毛の色を抜いちゃった原田芳雄は、3作全部をカバー。
『太陽を盗んだ男』は沢田研二主演作、原爆をつくり国を挑発する中学教師を演じています。
徹底的に「目の愉楽」にこだわり、絢爛たる「スター映画」を世に問うてきた鈴木清順。すべては“遊び心”の成せるワザ。この曼陀羅のような3本を今、動画配信で観られるのは本当に贅沢なことだと思う。前言撤回。“清順美学”改め“清順宇宙”にようこそ!(轟夕起夫)
映画秘宝2012年2月号掲載記事を改訂!
浪漫三部作について鈴木清順監督が語った蔵出しインタビュー記事はこちらにあります!