大ヒット映画シリーズの『トラック野郎』全10作(1975年〜1979年)は今も人気! U-NEXTやAmazonプライムビデオなど動画配信サービスでも鑑賞することができます(2020年6月現在)。
主役を演じたのは菅原文太!
ちなみに俳優・菅原文太についてはこちらの記事で紹介しています。
生前の菅原文太氏は、役者引退後、農業を営まれていました。蔵出しでここにご紹介するのは、農業に従事していた頃に『トラック野郎』について語っていただいたインタビュー記事です。
シリーズが今も愛され続ける理由がわかる、愛情たっぷりのコメントとともに、『トラック野郎』をご紹介!
『トラック野郎』は時代が生んだパワフルコメディ
その時代にしか作れない、ハチャメチャにパワフルで面白い娯楽映画というものがある。1975〜79年をフルスピードで突っ走った『トラック野郎』シリーズは、まさにそれだった。
映画自体が「アスファルトの上を走る祝祭」であったのだ。
ここはやはり祭りの主役、われらが桃さん=星桃次郎役の菅原文太氏に御登場いただかなくては!
菅原文太 あれは俺が、人間ドッグかなんかで病院に入っていた時だったと思う。そこにキンキン(愛川欽也)がマネージャーと一緒に訪ねて来たんだよ。
週刊誌を何冊か持ってきて、記事を見せて「今、こういうギンギラギンのデコレーショントラックが流行っているんですよ」と。で、「これ、映画になりませんかね」と言う。
日本にはそんなデコトラの映画はなかったから興味をそそられて、じゃあ考えてみようかということになって、東映に話を持っていったら会社のほうもノってくれたんだ。
そして、1975年8月20日に栄えある第1作『トラック野郎 御意見無用』が公開。大ヒットを記録して、“一番星号”に乗る長距離トラック運転手・星桃次郎と、(愛川欽也扮する)子だくさんの相棒、やもめのジョナサンこと松下金造との物語が始まった。
シリーズ全10作を任されたのは、大衆エンタメ映画のマエストロ・鈴木則文監督。
菅原文太 まあ、鈴木監督とは、前に『関東テキヤ一家』シリーズもやっていて、こういう超の付く娯楽作品だと、鈴木さんしかいないのかなって。
お互い、若かったからー日の撮影が終わるとスタッフ全員でとにかく酒宴になった。みんなヘベレケになるまで飲んで、それで朝になるとまた元気に撮影をする毎日だったよ(笑)。
鈴木監督曰く、先行していた『男はつらいよ』シリーズ、松竹の寅さんは落語で、『トラック野郎』は漫才、と考えていたとのこと。
全編に猥雑なエネルギーがみなぎり、時事ネタ流行ネタもふんだんに。毎度、マドンナとのエピソードで笑わせ泣かせ、クライマックスでは損得など度外視して、世のため、人のために激走する一番星号は白バイ、パトカーとのバトルで手に汗を握らせた。
菅原文太 あのド派手なカーチェイスな。 映画ってそういうところが面白いんだよ。つまり、すべてがフィクション、何でもできる。むしろ映画なんてものは物事のスレスレでギリギリのところを描くべきだと思うな。
警察に追われ、掟破りでスピードアップして爆走する設定はこのシリーズの見どころだったんだけども、それは映画だけに許されることだった。
トラック野郎だけでなく、お客さんたちは皆、日頃の鬱憤を映画で発散してくれていたんじゃないかな。余計な理屈なんていらないんだ。そんなもの、なかったから映画として迫力が出た。
俺は殴り合いの喧嘩のシーンやら何やら、アクションのひとつひとつを全部自分でやったし、キンキンはキンキンで三枚目の役を一所懸命に演じてくれた。
2人の息はぴったりで、いちいち打ち合わせなんかする必要はなかった。自分の持ち分さえしっかりとやっていれば、おのずと上手くいったんだ。
世代を超えて愛され続けるキャラクター
当シリーズを観て、長距離トラック運転手になった人は数知れない。また多くのトラッカーたちに影響を与え、いわば「人生を変えた」作品ともいえる。
菅原文太 得難い出会いになったよな。今でも俺のところに、トラッカーのみんなが会いに来てくれるんだ。若い連中も来るからね。親父さんがトラック野郎だった息子がそのあとを継いで、それで俺のもとを訪ねてくる。
男だけじゃない。女性も増えたよなあ。これは声を大にして言いたいんだけど、トラック野郎たちと会って、一度も不愉快な思いをしたことがないんだよ。本当に最高のファン、と呼んでいいんじゃないか。
現在も、星桃次郎という不世出のキャラクターは、シリーズと共に世代を超えて愛され続けている。文太さん自身はその色褪せない魅力をどう捉えているのだろう。
菅原文太 うーん、無欲ってとこかな。事実、本物のトラック野郎たちも無欲で、こっちがあれこれ言わなくたって現場を喜んで手伝ってくれたんだ。
車輌からエキストラ出演も含めてノーギャラで、全面的にこの作品に協力してくれた。映画の中の桃次郎も、最後には自分のことより他人のために、懸命に汗を流して、危険も厭わず体を張っていたろ。
今は世の中どうも、人間が狡くなったし、他人との関係もギスギスしているじゃないか。そういう社会とは真逆だから、今でもウケているんじゃないかな。
『仁義なき戦い』シリーズのような激しい映画も楽しかったけど、一方でこういうバカバカしいが、無欲で人のために生きる男は、演じながら気持ちが良かった。
一番星の桃次郎に対してはいまだ、自分の相棒だと感じるような愛情があるよ。俺は農業をやってるだろ。椎茸も作ってるんだ。菌床ではなくて原木椎茸を。それには一番星、って名前をつけてるんだよ!
インタビュー時、農業を営んでいた文太氏。星桃次郎の信念を貫いてゆくその姿勢、真っ直ぐさは人間・菅原文太の一部であったのだ。
東映キネマ旬報2013年冬号掲載記事を改訂!