追悼・俳優語り[夏八木勲]…スクリーンで男を演じ続けた映画俳優

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館理人
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亡くなられたのは2013年のことでした。追悼記事の改訂版にて、俳優・夏八木勲の仕事をざざざっとご紹介!

PHOTO:映画『希望の国』公式HP予告編より
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ドラマという建築物を安定させ、作り手たちの思いを立体的にカタチにした梁のごとき俳優

 ひとことで表すと、夏八木勲は数多の作品の中で、“梁のごとき働き”を見せてきた。梁とは、柱が斜めに倒れないよう、水平短径方向に架けられ、建物を支える構造上重要な部材のこと。

 どんなシーン、シチュエーションでも彼がそこにいれば見事な“しなり”を発揮し、ドラマという建築物を安定させ、作り手たちの思いを立体的にカタチにしてきたのだ。

 1963年、劇団俳優座の俳優養成所に入所。個性派役者が集っていたいわゆる“花の15期生”で、卒業と同時に東映と専属契約、加藤泰監督の『骨までしゃぶる』(1966年)で映画デビューを果たした。

 桜町弘子演じる遊女に惚れ、身請けしようとする職人役だ。クレジットには「夏八木勲(新人)」と出る。

 部屋で逆立ちをして待っているところに彼女が入ってくるや、ニヤリと笑い、白い歯がこぼれるあの何とも言えないイイ顔。この顔は以後、彼のトレードマークとなった。

 続いて五社英雄監督の『牙狼之介』(1966年)、『牙狼之介 地獄斬り』(1967年)に主演、鉄身を手にし特訓して挑んだ豪放な浪人役もまたピッタリで、1968年、東映を離れてフリーになっても時代劇は生涯、夏八木にとって大切なジャンルとなる。

 それにしても、どんな役でも演った。TVドラマにも無数に出た。

 1970年代後半から80年代前半は、プロデューサーの角川春樹とタッグを組み、角川映画の主力に。

 とりわけ戦後の混乱期、巨額を集めた闇金融犯罪“光クラブ事件”をもとに独創を盛り込んだ村川透監督の『白昼の死角』(1979年)では、ピカレスクな主人公を! 

 雑誌の取材でインタビューをさせていただいた際、この映画のゼロ号試写のときの仰天エピソードを披露してもらった。

 当時海外に逃亡していた役のモデルとなった人物が姿を現し、一緒に肩を並べて完成作を観たのだという。

 お話を伺ったのは、渾身の演技がまだ記憶に新しい、園子温監督の『希望の国』(2012年)の公開前。

館理人
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『希望の国』は東日本大震災後、原発近くの警戒区域外に住むある家族を描きます。

 外で写真を撮っていると、道ゆく人から握手を求められ、実に丁寧に応対をされていた。その姿が今も忘れられない。思い出せば、キリがなくなる。

 素敵な声の持ち主であった。

 1974年、テレビ放送された『荒野の用心棒』(1964年)とビデオ発売時の『マディソン郡の橋』(1995年)でクリント・イーストウッドの声をアテていたが、新潮のカセットブックで、開高健の「玉、砕ける」と「怪物と爪楊枝」(『歩く影たち』所収)を朗読しているものがあるのだ。発売されたのは1987年のこと。これも素晴らしい。

 “戦争”は夏八木の俳優としてのキャリアを語る上でも外せないキーワードだ。TVドラマではNHKの連続テレビ小説『鳩子の海』(1974年)の脱走兵も名演だった。

NHKアーカイブより

 (本稿執筆時)まだ公開されていない作品には、病を押して出演した『終戦のエンペラー』(2013年)、『永遠の0』(2013年)、

それからカンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いた是枝裕和監督の『そして父になる』(2013年)も。

 福山雅治の父親役で、福山とは大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)でも共演、龍馬を支えた越前藩主・松平春嶽に扮していた。

 是枝監督とはTVドラマ『ゴーイング マイホーム』(2012年)に続いての共同作業。

 『ゴーイング マイホーム』の最終回には劇中、葬儀シーンがあるのだが、「予行演習になるから」と、画面には映らないのに自ら棺の中に入ったという。

 アメリカよりヨーロッパの文化、とくにフランス映画とイタリア映画が好きだった。誰かに憧れて役者稼業に進んだわけではないが、ジェラール・フィリップのことは「すごい俳優だと思った」と語っていた。

館理人
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フランスのイケメン俳優ジェラール・フィリップ。主演作『モンパルナスの灯』では実在の画家モディリアーニを演じています。

 夏八木勲の堂々たる体軀は、ギリシア建築の美しさを感じさせた。

 ガシッと屋台骨を支えてきた“梁”を失って、日本(映画)はこれから大丈夫なのか? 無論、大丈夫なわけなどない。が、それでも生きていく、しかない。

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夏八木薫が光るおすすめ映画はコレ!傑作ピックアップ

『ピラニア軍団 ダボシャツの天』

 目指すは日本一の極道、実態は三下のチンピラ、ダボシャツの天、こと松田天。

 これを川谷拓三が絶妙に演じれば、夏八木勲はその兄貴分、押し出しはいいけれどどこかヌケてる贅六会幹部、百足むかでの錦三役に。

 顔に刀傷、全身にもケンカ傷が絶えない男で、フンドシ一丁で走り回り、ヒロインの田舎娘、おぼこい武田かほり(映画デビュー作!)をコマそうとして失敗したり、原作の人気劇画にも負けないデタラメぶりを発揮。

 夏八木さん、長いキャリアの中で「なぜ僕にこの役を」と思われた作品は── と、インタビュー取材で質問したとき、答えられたのが本作。

「最初は『このヤーさん役を俺がか?』というのはありました。ところがこれ、やってみたら楽しくてね。自分からは一見遠いキャラクターなんだけど、ひょっとしたら歴然と自分の中にもある要素なのかも」と感じたそう。

 大阪を舞台に、大部屋役者たちが下克上を果たした東映ピラニア軍団の面々とのお祭り騒ぎ。それはもう、愉快な日々であったことだろう。

館理人
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大部屋役者とは、ヤクザ映画や時代劇が盛んだった頃、クレジットされないけれどエキストラではない、敵役や斬られ役として出演していた役者たちの通称。

東映ピラニア軍団とは、東映京都撮影所で活動していた、川谷拓三ら当時の大部屋役者たちを中心に結成されたグループの通称です。

『戦国自衛隊』

 三等陸尉の伊庭義明(千葉真一)率いる一個小隊、全21名の陸上自衛隊員たちが問答無用で戦国時代にタイムスリップ!

 近代兵器を持ちながら実践経験がなく、戦場で脱落してゆくヤワな現代人に対し、喜々として兵器を手に野生の雄叫びを上げるのは、武将・長尾景虎(後の上杉謙信)。

 むろん演じたのは夏八木勲だ(公開当時は「夏木勲」名義)。

 タイクーン・角川春樹の、1979年の破竹の勢いみなぎる正月映画であり、夏八木勲と千葉真一との熱い友情がほとばしったSF青春時代劇である。

 2人は1日の撮影が終わると、ロケ地から10キロ先の宿舎までバスで帰るところを一緒に走って帰った仲。

 夏八木はこれが縁で、JAC(ジャパンアクションクラブ)のトレーニングにも顔を出すようになる。

館理人
館理人

JAC(ジャパンアクションクラブ)は、千葉真一が、世界で通用するアクションスター・スタントマンを育成・輩出する目的で立ち上げた芸能事務所です。

 劇中の「共に天下を取ろう」という景虎の言葉に呼応した伊庭の「歴史を変えんとする」行動=アクションの数々は、そのまま夏八木と千葉の「日本映画の歴史を変えんとする」チャレンジでもあった。

轟

映画秘宝2013年8月号掲載記事を改訂!