『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』(2016年)は、マイケル・グランデージ監督、出演はコリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、ローラ・リニー、ガイ・ピアースほか。
主役を張る役者が揃っていますヨ! レビューをどうぞ。
トマス・ウルフのベストセラー誕生秘話
原題は『GENIUS』。1920代末から30年代中盤まで名編集者マックス・パーキンズと組み、「天使よ故郷を見よ」などを発表したトマス・ウルフのベストセラー誕生秘話を描く。
原作は邦題「名編集者パーキンズ」です。
「天使よ故郷を見よ」は自伝的小説です。
本作で長編映画初監督を手掛けたのは、ロンドンの劇場ドンマー・ウエアハウスで芸術監督を務めていたマイケル・グランデージ。
・ ・ ・
家でも会社でも、寝るとき以外は常に帽子を被っていることで有名だった男をめぐる実話である。
男の名はマックス・パーキンズ(コリン・ファース)と言い、フィッツジェラルドやヘミングウェイといったアメリカ文学史上の大作家を見出し、成功させた敏腕書籍編集者だ。
ここで本作のタイトル(邦題)をよく見てほしい。ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ――ではない。「ベストセラー」で切って、「編集者パーキンズに捧ぐ」。
では誰が捧げたのか。しかもどういう理由で?
つまりは、それを描いた映画だということ。ある日、彼のデスクに原稿の束が置かれる。NY中をたらい回しにされている無名の書き手のものだそう。
名前はトマス・ウルフ(ジュード・ロウ)。パーキンズは原稿を読んで、出版を決める。ただし、こう提言する。
「長すぎるのであなたと2人で手を入れたい。“余分な枝”の刈り込みなら認めていただけますか?」
的確な助言をし、大幅な改変、削除作業を経て、さらにはタイトルも変えた小説は、発売されるとベストセラーに。
めでたしめでたし……なんてトントン拍子のまま終わるわけがない!
編集者は黒子、「傑作を最良の形で読者に渡すことが自分の務め」をモットーとするパーキンズに、続く2作目でトマス・ウルフが“献辞”を捧げたのは確かだ。
2人の濃密な関係は父と子のようであるが、ウルフのパトロンにして愛人(ニコール・キッドマン)が激しく嫉妬するほどで、恋人のようにも見える。
しかし、「パーキンズの力を借りなければ作品を書けない」という噂が立ち、新進作家は苛立つ。実はこの男もまた、今日まで語り継がれるアメリカ文学史上の傑物なのだった。
ところでパーキンズのほうは、作家のせいで思わず帽子を脱ぐことになる。ここが一際、感動的。
タイプの違う天才同士の創作のプロセス。名作誕生の裏側。やはり事実は、小説よりも奇なり。
週刊SPA!2017年3月7日発売号掲載記事を改訂!