ブラックユーモア溢れる『トッド・ソロンズの子犬物語』(2015年)は、その名の通りトッド・ソロンズ監督の映画です。
が、タイトルに入れるほど、そんなに広く知られているわけでもないと思います、トッド・ソロンズ(笑)。
さささ、レビューをどうぞ!
イタいのにオモロい悲喜劇を描き続けるアメリカのインディーズ映画界の鬼才=トッド・ソロンズ
サンダンス映画祭でグランプリを受賞した『ウェルカム・ドールハウス』(1995年)以降、寡作ながら愛ある問題作を発表し続けているトッド・ソロンズ監督作品。
『ウェルカム・ドールハウス』はトッド・ソロンズのデビュー作。いじめられてる高校生女子の、バイタリティある日常を描きます。
作劇の下敷きにしたのは、一匹のロバの運命をキリストの受難劇になぞらえたロベール・ブレッソン監督の名作『バルタザールどこへ行く』(1964年)である。
『バルタザールどこへ行く』は少女と、少女が可愛がるロバの悲劇。
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えらく大胆なタイトルをつけたものだ。原題は『Wiener-Dog』。短足胴長の猟犬ダックスフントを指すのだが、それが『トッド・ソロンズの子犬物語』となって2017年1月、日本で公開された。
たしかに原題のままでは興行的に厳しいし、“ダックスフント”にしたとしてもよくわからない。そこで選ばれたのが、苦渋の策の“監督の名前推し”。
しかし未だに多くの人はこう思っているのではないか。「そのトッド・ソロンズって誰なのよ?」と。
一言で述べるならば、人間のどうしようもない“業”=カルマってやつを露悪的にコメディの衣で包み、イタいのにオモロい悲喜劇を描き続けるアメリカのインディーズ映画界の鬼才、ということになるだろう……って、ぜんぜん“一言”にはまとめられていませんが。
まあ先のタイトルは、かように取り扱い注意な監督名×子犬のアンバランスな組み合わせがミソだったわけだ。
つまり、「あのトッド・ソロンズが動物モノの感動作を!?」と思わせる一方、「やっぱりそれはないな。でももしかして……」と“わかる人”の心を一瞬ざわつかせた邦題なのであった。
フタを開けてみると、まったくもって平常運転のトッド・ソロンズ映画で、可愛いダックスフントは登場するのだが、主人公というよりも狂言回し的な役割を担っており、さまざまな飼い主のあいだを転々とする。
そうして辿り着いた先々で、ジュリー・デルピーやダニー・デビート、エレン・バースティンといった名優が演じる飼い主たちの、わびしくも“歪んだ人生”が次々と明らかになっていくのである。
ジュリー・デルピーについては、こちらのレビューでご紹介してます!
では、ダックスフントの運命は?
悪趣味映画の帝王ジョン・ウォーターズ監督が昨年、個人的ベストテンの5位に本作を選んだように、ラストは完全に「アウト!」な展開が用意されている。
ジョン・ウォーターズ監督については、こちらのレビューでその強烈な個性をご紹介してます。
でもきっとトッド・ソロンズは“ツンデレ”なのだ。その描写とは裏腹に犬も人間も大好き、に違いない。
週刊SPA!2017年7月11日発売号掲載記事を改訂!