ペキンパーの数奇なキャリアに思いを馳せた
嗚呼そうだった。すっかり忘れてた。
なんとも不思議な組み合わせだけれど、ペキンパーの正式の遺作はこれだったよ!
と、ドキュメンタリー映画『サム・ペキンパー 情熱と美学』の開幕早々に配された現場風景、ジュリアン・レノンのデビュー曲「ヴァロッテ」と、セカンドシングル「トゥー・レイト・フォー・グッドバイ」のPVの裏側を目にして、遠い記憶が一気に甦ったのだった。
この2曲が撮影されたのは1984年10月のこと。それからまもなく、12月28日にペキンパーは逝った。
最後の勇姿。「ではガキどもにお手本を見せるか」とカメラを覗くペキンパー。
かたわらにいるのは正式なカメラマン、『ガルシアの首』のアレックス・フィリップス・ジュニアだ。すげえな。こんなメイキング映像、今まで観たことがないぞ。
『ガルシアの首』はペキンパー印の、(時にスローモーションを用いた)賞金稼ぎと敵対する男たちの迫力ある銃撃戦も見どころ。
しかし思うだに不思議な組み合わせである。本当にペキンパーは、数奇なキャリアを歩んだ人だった。
師匠ドン・シーゲルの教えをまずテレビドラマで活かし、
ドン・シーゲルの監督は『アルカトラズからの脱出』など。こちらはクリント・イーストウッド主演作です。
映画デビュー作『荒野のガンマン』で名花モーリン・オハラをヒロインに迎え、
1960年代、西部劇というジャンルを愛し尽くし終わると現代を舞台にした『わらの犬』『ゲッタウェイ』でも一段と冴えを見せ、
『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』ではボブ・ディランを映画の世界に引き込み、
希代のトラブルメーカーとして名を馳せるも70年代はコンスタントに作品を発表、『戦争のはらわた』は超ド級の大傑作で、それでもってラストはジュリアン・レノンのPVを。
そんな波瀾万丈男のドキュメンタリー、私財を投げうち作ったのはペキンパーに関する書籍も出している映画史家マイク・シーゲル。
出てくる出てくる。彼の努力でペキンパー映画を彩った仲間たちが。
アーネスト・ボーグナインにジェームズ・コバーン。
センタ・バーガー、アリ・マッグロー、イセラ・ベガ。
イセラ・ベガは先の『ガルシアの首』に出演しています。
デヴィッド・ワーナー、L・Q・ジョーンズにR・G・アームストロング、クリス・クリストファーソン……かの名著「サム・ペキンパー」を書いたガーナー・シモンズ先生も!
この本はぜひ合わせて読みたい。
そういえば素晴らしいスチール写真ばかりを集めたページでは『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』の撮影中、ロケ先のメキシコ、デュランゴにてジョン・ウェインの製作会社とサッカー対決し、勝利を収め、トロフィーを抱いてご満悦のペキンパーが見られます。
いやあ、サッカーもやったんだね、ペキンパーは。
1990年代の東京では数年おきにペキンパー映画に光が当たり、『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』『ガルシアの首』『ワイルド バンチ/オリジナル・ディレクターズ・カット』と短編ドキュメントがシネセゾン渋谷で上映された。
『ガルシアの首』は、崔洋一監督と作家の桐野夏生さんのトークショー付きで観た。が、その劇場は、もうない。
いや、なくても自宅で何とかしましょ。本作を観れば、この“憎みきれないろくでなし”の映画を浴びたくなりますから。マジに。絶対に。
ケトル2015年8月号掲載記事を改訂!