高校生のリアルに迫るドキュメント……のはずが、ドキュメントっぽくないのはなぜ?
(2009年3月17日号より)
近年、映画やTVドラマはリアリティを求め、その方法論としてよくドキュメンタリー・タッチを導入する。ナマっぽい映像と臨場感あふれる編集の合わせワザ。これは簡単そうで、作り手のセンスが如実に出てしまう手法なわけだが、逆の発想もまたあり。本作『アメリカン・ティーン』の場合は、素材はまさしくリアル。実際のアメリカのティーンエイジャーの日常をドキュメンタリーとして捉えた……のだが、仕上げの段階で作者はあえて“ドラマ色”をぶち込んでいるのである。
具体的に書いてみよう。中西部インディアナ州のハイスクールに通う学生たち。高校生活最後の年にカメラが随行する。上映早々、ナレーションはこう告げる。「アメリカは実力主義だと教わったけど、学校は完璧な身分階級制」と。そうして、今まで数々のアメリカ学園映画が描きだしてきた典型的なキャラが目の前で動き始める。
セレブ育ちで、“クイーン・ビー”と呼ばれる女王タイプのメーガン。学校の花形バスケ部のスター選手コーリン。かたやオタクのジェイクや、フツーであることを嫌うアート志向の異端児ハンナも。途中、ドキュメンタリーらしく個々のインタビューカットも挟まれるが、観終わった印象は「秀逸な青春映画」。時にそれぞれの内面をアニメやCGで表現したり、ドラマティックな切り返し、的確な撮影と編集と音楽が、ついドキュメンタリーであることを忘れさせるのだ。
作者は、ナネット・バースタイン。ニューヨーク大学大学院映画学科の友人、ブレット・モーゲンと作った『くたばれ!ハリウッド』で高評価を得た俊英だ。彼女自身は高校時代、“クイーン・ビー”に準ずるグループに属するも異和感から離れ、パンクロッカーになろうと、ピンクのモヒカン頭にしていたそう。
実は、冒頭のナレーションの主は異端児ハンナで、バースタインはこのキャラに自分を重ねているのである。そういった作為も“込み”で、本作は楽しみたい。もはや10代のリアルよりも、抜き差しならぬ大人の心情吐露のほうがグっとくるからだ。
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撮影に10ヶ月、約1000時間分のフィルムを1年費やして編集。劇中で使った音楽は、出演者のipodから選出した。高校3年生たちが理想と現実の狭間で悩む姿を描く。第24回サンダンス映画祭でドキュメンタリー部門最優秀監督賞を受賞したが、影響濃厚なジョン・ヒューズ監督の青春映画の傑作『ブレックファスト・クラブ』(’85年)好きも必見。
[週刊SPA!掲載]
●監督:ナネット・バースタイン●出演:ジェイク・トゥッシー、他●2008年●アメリカ
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