こちらの映画レビューは、日活ロマンポルノのタイトルを紹介していく男性誌での連載コラム記事の復刻です。
その前にロマンポルノ解説を少々。
ロマンポルノは、R-18の映画で日活のレーベル。アダルトビデオとは別くくりの、年齢制限のある一般邦画として分類される映画です。
詳しくはこちらで紹介しています。
前置き以上!
あ、コンプライアンス意識皆無時代のコラムゆえ、所々のバカすぎる文面には要注意でお願いします。
データ
1976年
監督:小沼勝
出演:宮下順子、水乃麻希、花上晃、長弘、堀田真三、田畑善彦、浜口竜哉、中平哲仟、大谷木洋子、加賀修詞、小林亘 脚本:佐治乾
「あなた♥」「あなたッ!?」「あなた!!」「あ・な・た」…
(轟夕起夫)
「あなた」の中には「あな」すなわち「穴」がある。
はい?
もとい。
ですね、仕切り直しましょう。
映画のオープニングというのも色々あるが、これほど変わったものもまたとあるまい。なにしろ開幕早々日活マークの上にかぶさるのは、「あなたっ、あなたァ、ア・ナ・タ」と呼びかける、オンナの切ない声。
宮下順子主演の『犯される』はそんな風に始まる。
会社ロゴで遊ぶのは、当時は斬新だったんですね。
ここでの“順子”の役は主婦である。マイホームを手にし、洗濯物を干しながら小坂明子の「あなた」を口ずさんだりする平凡な、しかし幸せいっぱいの若妻。
大ヒット曲「あなた」は、たっくさんの歌い手さんがカバーもしています。May J.さんはじめ、CHARAさんとか。
が! 夫が旧友を家に連れてきた瞬間から、彼女の幸せな日々は一変する。刑務所帰りのそのヤクザに夫は弱みを握られており、飲めない酒を強制されて意識不明に。その隙に“順子”はヤクザに犯されてしまう。
監督は小沼勝さん。ロマンポルノの名作を数々手がけています。
数日後、真相は明らかになる。
ヤクザは昔、夫と宝石の密売仲間で、ひとり罪をかぶって刑務所に入っていたのだ。現在の幸福なマイホームは、この疫病神のおかげで手にしたようなものではあるが、狼藉三昧、命を脅かされ、無我夢中で“順子”はヤクザを殺す。
私ごとですが、冒頭の「穴」が脳内に残り、かつ膨んでおります…。
「穴」はワード的に強いんですもん。
「穴」タイトルで煽っていた青春映画がありました。菊池桃子さんのデビュー作『パンツの穴』。監督はロマンポルノも1本だけ手がけた鈴木則文さん。
その後、同タイトルの映画が作られシリーズ化しましたが、監督と主演はそれぞれ違います。
ところが、本当の地獄はここからであった。ヤクザの密輸した宝石を取り戻そうと、組織が執拗に夫婦を追いかけてくる。拷問。蹂躙。生き埋め……そして最後に彼女を待っていたのは、まさかの夫の裏切り!
まんまタイトルが『穴』というのもあります。
1960年、フランスの巨匠ジャック・ベッケルの監督作(原題『Le Trou』)と、1957年、日本の名匠・市川崑監督のサスペンスコメディ。後者は船越英二さん、出演です。
それからシャイア・ラブーフ主演のアメリカ映画『穴/HOLES』(2003年/原題『Holes』)も。
こちらはファミリー・アドベンチャー。
オープニングシーンが示しているように、本作での宮下順子の台詞は驚くべきことに、ほとんど夫に対する「あなた」という言葉の変奏で設えられてある。
たとえばそれは、慈しみの「あなた♥」だったり、疑いの「あなたッ!?」だったり、あるいは怒りの「あなた!!」だったり、諦めの「あなた……」であったり。もちろんラストを締め括る台詞もこれだ──「あ・な・た」。
もう、冒頭の一文のせいで「あなた」が「穴た」にしか聞こえませんっ。
残念ながら夫の耳にその声は、もう永久に届かないのだが! 傑作である。
月刊ビデオボーイ2003年1月号掲載記事を改訂!
ロマンポルノを鑑賞するためのサービスについて、関連記事はこちらです!
『犯される』は、
AmazonTSUTAYA TV
の動画配信サービスで配信されています(2020年10月現在)