強烈な悪漢を描いた映画といえば、これ!『狩人の夜』(1955年)をご紹介。
監督はチャールズ・ロートン、出演:ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンタース、ほか。
レビューをどうぞ!
右手の指の甲には「LOVE」、左手には「HATE」の刺青。愛と憎しみに葛藤しつつ、大金を隠して逃げる子供たちを執拗に追いかける!
映画監督のフランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール、スティーブン・スピルバーグ、スパイク・リー、作家のマルグリット・デュラス、スティーブン・キング……
トリュフォー、ゴダールについては、こちらのレビューで紹介してます。
本作を愛する著名人は枚挙にいとまがない。劇中、子供たちを保護し、悪漢ハリー・パウエルを迎え撃つのは、サイレント期から活躍してきた名女優リリアン・ギッシュ!
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最近(注:2009年現在)、映画を形作る重要な要素のひとつ、とんでもなく魅力的な悪漢と出会えていない気がする。
2008年は、ざっと挙げても『ダークナイト』のジョーカー、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の狂信的な石油王と宣教師、『ノーカントリー』の家畜用スタンガンを持ち歩く殺し屋など、キャラの立った悪漢どもが大いにスクリーンを賑わせていたわけだが。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』については、こちらにレビューがあります。
『ノーカントリー』については、こちらにレビューがあります。
まあ、これからの公開作に期待しつつ、ここでは映画史に残る特別な悪漢について触れてみたい。
『狩人の夜』に登場するニセ伝道師、ハリー・パウエルである。個性派アクター、ロバート・ミッチャムが爬虫類のごとき質感を与えたこの男は、ムショで知り合った死刑囚が隠した大金を求めて、残された家族(妻と子供二人)のもとを訪れ、カネの在りかを聞き出そうとするのだった。
実はハリーは連続未亡人殺しの犯人で、無残にも妻は車もろとも川底に沈められる。目の前には驚くべきスーパーショットが映しだされるだろう。長い藻が水流で揺れ、女の髪もユラユラとなびく。外の光が微かに射しこみ、世にも美しい死体を輝かせてみせる。
ハリーは神と対話し、殺しを通じて世の中を浄化したつもりになっているから何とも始末が悪い。右手の指の甲には「LOVE」、左手には「HATE」と刺青されており、愛と憎しみが常に葛藤したキャラクターとして屹立、大金を隠して逃げる子供たちを執拗に追いかけ続ける!
この『狩人の夜』は、イギリスの名優チャールズ・ロートンが生涯に1本だけ監督を手がけた作品だ。
当初は興行的にも批評的に惨敗したが、後にカルトムービー化。DVDは2004年に発売されたものの廃盤に。中古市場で高額で取引されていた中、2009年に低価格でDVD再リリースとなった。
さてハリーは、両手の指を組んでみせ、「LOVE」と「HATE」が表裏一体、つまり紙一重であると示す。現代の映画でもお馴染みの愛憎こもごもの世界観。それを先駆的に体現していたとも言えるのが、この悪漢ハリー・パウエルなのだ。
週刊SPA!2009年8月18日号掲載記事を改訂!