読む映画リバイバル『私の悲しみ』

轟夕起夫の注目する次の才能『私の悲しみ』を観よ

(2012年6月号より)

 今、彼ほど、日本のオルタナティブなシンガーソングライターたちとのつながりが深い監督もいないのではないか。堀内博志。74年生まれで、劇場デビュー作は、昨年公開された『加地等がいた−−僕の歌を聴いとくれ−−』。どんな内容かといえば、大阪でそれなりに人気を博していたガレージバンドのボーカリストから一転、01年、フォークシンガーになり、37歳で上京するも世間的にはブレイクすることなく40歳で急逝した加地等の、苦悩と泥酔と無頼の2年半を生々しく捉えたドキュメンタリー映画だ。

 もともとは、PVを撮る仲であった豊田道倫のライブに行った際、打ち上げの席上に豊田が知り合いの加地を呼び、そして初めて堀内監督は加地と出会って、運命に導かれるように最期の時間を記録したわけだ。次なる映画、最新作はドキュメンタリーではなくフィクションで、タイトルは『私の悲しみ』——第12回を数えるTAMA NEW WAVE のグランプリに輝いている。

 といっても、TAMA NEW WAVE の説明が若干必要だろう。今年で第22回となる多摩映画祭(正式には映画祭TAMA CINEMA FORUM)のなかの自主映画のコンペ部門。古くは深川栄洋、近年は内田伸輝、加治屋彰人、今泉力哉、岸建太朗といった注目の才能がグランプリを獲得し、堀内監督もそこに並んだのだった。

 舞台は東京。『私の悲しみ』は、精神の均衡を逸してゆく妻(永峰絵里加)と、「ジョギング」と称して外出し不倫している夫(いとうよしぴよ)をはじめ、総勢14人もの男と女が絡みあい、もつれ合って感情のコンチェルトを響かせていく映画である。堀内監督はキャスティングをしてから脚本を書いたそうだが、登場人物ひとりひとりに「悲しみ」の裏メロ(副旋律)を付与してそれを混ぜ合わせ、物語的にも不思議な音色を作りだしてみせた。とりわけ、TAMA NEW WAVEでベスト女優賞 を獲得した、関西では有名な演劇人、(『焦げ女、嗤う』や『善人』などインディーズ映画でもお馴染みの)よこえとも子に調性をぶち壊す役割を託し、結果メジャーでもマイナーでもない“音の連なり”に。タイトル自体はおそらくセルジオ・メンデス&ブラジル’65のボサノヴァ名曲「Tristeza Em Mim」の和題から取っており、となるとジャンル的にはサウダージ、とでも言えようか。

 劇中の音楽は、八王子出身のアコースティックユニット、THE WEDDINGSのナンバーで始まり、麓健一、DIEGO、大森靖子、さらには三鷹市にある「おんがくのじかん」での北村早樹子のライブ場面もチラっと。その楽曲「解放」のPVも堀内監督の手による。で、ラストを飾るのはオクノ修の「春」。京都の名門喫茶六曜社のマスターの顔も持ち、70年代はバンド活動、現在は師匠・高田渡譲りの弾き語り詩人。堀内監督は「出会ったとき〜オクノ修、高田渡を歌う〜」というレコーディングドキュメントも制作済み。若いのに、濃ゆいキャリアだ。

 多々固有名詞をちりばめてきたが、ひとりでも「あっ!」と思った人がいたら、お薦めします——本作を観ることを。

[ケトル掲載]
●監督:堀内博志●出演:永峰絵里加、白瀬美樹、神田義弘、他●2011年●日本