読む映画リバイバル『スカイラブ』

アマルコルドな、人生のスケッチ

(2013年4月下旬号より)

 スカイラブ。漢字で書けば〝空愛〟となるのか。何だか恋空みたいだが、いやいや、このラブはラボラトリーの略、つまり〝空の実験室〟。アメリカ初の宇宙ステーションの名前である。73年に打ち上げられ、79年、大気圏に再突入。これをタイトルに選んだのは監督ジュリー・デルピーで、女優業と平行して近年、「パリ、恋人たちの2日間」(07)、 「血の伯爵夫人」(09) とプレイングマネージャーとしても活躍。監督3作目となったのが「スカイラブ」なのだ。

 冒頭から画面が弾んでいて、いきなり引き込まれる。主人公はアルベルティーヌ。彼女は夫と幼い子ども2人、一家総出でパリ行きの列車へ。だが丁度よい席が取れず、他の乗客とやりやった末にバラバラに。そして、おもむろに車窓の風景を眺めているうちに、自らの少女時代のヴァカンスを回想してゆくのだった。

 それは79年7月。11歳のアルベルティーヌは父(エリック・エルモスニーノ)、母(ジュリー・デルピー)と共にブルターニュ地方を訪れる。スカイラブが地上に落ちてくる前日だ。田園の中の一軒家には、祖母の誕生日を祝うために親戚たちがあちらこちらから集っている。祖母に扮するのはベルナデット・ラフォン。横にはエマニュエル・リヴァも。フランスの二大ベテラン女優が揃い踏み!

 やがて宴が始まる。酒を飲み、羊を一匹丸焼きにし、バカ話エロ噺が飛びかい、しかし政治談義では本気で罵り合う。アルジェリア戦争、はたまた五月革命の傷跡は簡単には消えず、生に張り付いた性、いや、性と不可分な生が脈打つ。ホンモノの人間がそこにいる。それが嬉しい。

 夜、ディスコパーティに繰り出した子どもたち。〝一発屋〟パトリック・ヘルナンデスのヒット曲〈ボーン・トゥ・ビー・アライブ〉が懐かしくも気持ちいい。少女アルベルティーヌはDJ青年に淡い恋をする。出会ったのは昼間。海水浴に行った先でヌーディスト集団に遭遇、彼はその中にいた。性の目覚め。生の始まり。そんな彼女の〝今〟は回想が終わって、ラストで再び描かれることに。

 たった、2日間の物語。役者陣は皆、驚くほど自然だ。演技をしているようには見えず、こんなパフォーマンスを引き出せるジュリー・デルピー、大した手腕だ。すでに監督として「パリ、恋人たちの2日間」の続編「2デイズ・イン・ニューヨーク(原題)」(12)を完成させているが、彼女はノンジャンルの映画好きで、70~80年代のイタリア映画も好物、マリオ・モニチェリ、ディーノ・リージ、エットーレ、スコラが監督したオムニバスのコメディ「新怪物たち」(77)が特にお気に入りだそうだが、あの傑作も引き合いに出してみたい。世界的巨匠が北イタリアの町、故郷リミニでの忘れえぬ少年時代を綴った「フェリーニのアマルコルド」(74)。そこにも大家族が登場し、食卓はたいそう賑やかで、同じく精神を病んだ叔父さんの胸熱なエピソードが! つまり、「スカイラブ」はジュリー・デルピーのアマルコルドだと称揚したいのだ。アマルコルドとは、方言のエム・エルコルド(私は覚えている)が訛ったもの。最後に出る献辞「マリーに捧ぐ」はデルピーの母、マリー・ピエのことである。

[キネマ旬報掲載]
●監督・出演・脚本:ジュリー・デルピー●出演:ルー・アルヴァレス、ベルナデット・ラフォン、他●2011年●フランス