読む映画リバイバル『パンドラの匣』

実に眼福! 色香を無意識に競っている(!?)仲里依紗と川上未映子の演技に首ったけ

(2010年8月10日号より)

 仲里依紗vs.川上未映子。こんなナイスなカードの対決が、映画の中で行われていたのをご存知か。タイトルは『パンドラの匣』。ちょうど昨年、生誕百年を迎えた太宰治の小説が原作だ。戦後すぐ、山中の結核療養所が舞台になっているのだが、これが何ともノホホンと奇妙に明るいトーンの物語で、太宰文学を語る上では異色の作とされている。

 例えばこの療養所では、看護婦と患者が次のような挨拶を元気に交わすのが日常のルールなのだ。「やっとるか?」「やっとるぞ」「頑張れよ」「よしきた」。しかも、両者は互いにあだ名を決めて呼び合っており、表向きはとても(当時における)死の病を背負っている人たちには見えない。

 さて仲里依紗は、快活な看護婦の“マア坊”として登場、笑うと金歯がひとつ、キラリとチャーミングに光る。川上未映子は新任の看護婦長“竹さん”という役。どこか影のあるアンニュイさがいい味わいだ。

 ところで、対決といっても、二人が取っ組み合って闘うわけではない。年相応の女っぷり、色香ってヤツを無意識に競っている、と言ったほうがいいか。かたや「時をかける少女」「ゼブラクイーン」といった映画のキャラで知られ、今をときめく若手人気女優。かたや小説『乳と卵』で芥川賞、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞に輝き、ミュージシャンでもある才媛。劇中、仲里依紗は甘え、拗ね、男心をくすぐる気まぐれなネコ性の魅力を発揮し、川上未映子は終始、媚びず、しかし濡れた瞳は蠱惑的で貫録の存在感。特に雨漏りした床に四つん這いになり、拭き掃除する場面、はたまた炊事場の床をタワシで擦るシーンでの悩ましげな“女尻”は絶品。監督の冨永昌敬、アンタ、いい仕事をした!

 共にポテっとした唇もそそられる2人。実に眼福である。とにかく彼女たちを眺めているだけでいい。作品の本来のテーマ、「新しい男」に生まれ変わろうと背伸びする主人公(染谷将太)の自意識の空回りなんて、正直どうでもよくなる。さあ仲里依紗vs.川上未映子、あなたならどっち?

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敗戦後、“健康道場”なる結核療養所に入所したひばり(染谷将太)の看護婦への淡い恋心、療養仲間との交流などを綴った物語。映画初出演の川上未映子は、第83回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞。冨永昌敬監督の自主映画時代からの良き理解者、『パビリオン山椒魚』でも音楽を担当した菊地成孔のスコアも聴きものだ。

[週刊SPA!掲載]
●監督・脚本・編集:冨永昌敬●出演:仲里依紗、川上未映子、染谷将太、他●2009年●日本