読む映画リバイバル『マイマイ新子と千年の魔法』

世の中、どうにもならないことが時にはある。“元子供”に効果テキメンな人生謳歌という魔法

(2010年7月21年号より)

 可愛い絵柄に油断するな。これはとってもアバンギャルドな作風のアニメ映画だ。しかも泣ける。観ていると、なぜだか涙がにじんでくるのだ。今日を存分に生き、そしてまた新たな明日がやってくるのを楽しみに待つ、健気な子供たちが眩しすぎる。その中心にいるのは、おでこにマイマイ(つむじ)のあるヒロイン、小学3年生の青木新子。

 ストーリーの大枠は、そんなに珍しいものではない。田舎町で暮らす元気で空想好きな新子と、東京からやってきた引っ込み思案な転校生との交流。舞台に選ばれたのは、昭和30年代初頭の風光明媚な山口県防府市で、無論『となりのトトロ』的なノスタルジック世界にたっぷり浸れる。が、新子の意識は時折、平安時代にタイムスリップする。悠久の歴史を誇る土地柄に彼女が感応すると、千年も昔のアナザーワールドが新子の日常にカットイン! 誠に不思議な効果をもたらす。まったくもって“アバンギャルド”な作劇なのだ。

 では、何でもありのファンタジー映画なのか? 違う。例えばこの自伝的小説『マイマイ新子』を書いた原作者、芥川賞作家の高樹のぶ子氏は、当アニメについてこう言い放つ。

「人は空を飛ばず、空想上の生物は活躍しません。現実から逃避した物語で遊びたい人は、きっと失望しますから、見ないでください」と——。

 監督・脚本は片渕須直。演出補を務めたTVアニメ『名探偵ホームズ』や映画『魔女の宅急便』で宮崎駿監督をサポート。劇場用アニメを作ったのは’01年の『アリーテ姫』以来。新子と転校生の関係は、『アルプスの少女ハイジ』を意識していたそうだが、後半、現実の厳しさを子供相手に容赦なく突けつけるエピソードの連打には唸らされた。世の中、どうにもならないことが時にはある。子供たちはもう呑気に“新たな明日”を信じなどしない。だが、それでもこの新子の物語は、観る者に魔法をかけてみせる。酸いも甘いも噛みしめた元子供、つまり、我ら大人にこそ効果テキメンな、清濁合わせた人生讃歌の魔法を。現実から逃げないファンタジーを体験すべし。

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昨年11月の公開時には興行的に苦戦するも口コミで火がつき、全国ロングランに。心に残る主要キャラ、新子と転校生・貴伊子のボイスキャストは福田麻由子と水沢奈子。制作スタジオは『時をかける少女』『サマーウォーズ』のマッドハウスが担当し、スキャットの多重録音による音楽も実験的。コトリンゴの主題歌「こどものせかい」に涙。

[週刊SPA!掲載]
●監督:片渕須直●出演(声):福田麻由子、水沢奈子、他●2009年●日本