読む映画リバイバル『あんにょん由美香』

これは女優・林由美香をめぐるドキュメンタリーというより、一人の男の“ラブストーリー”だ

(2010年3月2日号より)

 これは、ドキュメンタリー映画にして“消えた女”をめぐる探偵映画だ。どういうことか。“消えた女”のミステリーを解くカギとなるのは1本の古いVHSのビデオテープ。それは’00年に韓国で制作、販売されていた低予算の作品で、タイトルは『東京の人妻 純子』とつけられていた。カタコトの日本語を喋り、珍妙な芝居を繰り広げる韓国人の役者とカラむ純子役は、林由美香。

 そう。彼女が“消えた女”。もうこの世にはいない。残念ながら’05年に急逝してしまったのだ。享年34。ロリータ美少女で、ハードコアなAVで人気を集め、NHKのドラマ『日曜日は終わらない』ではカンヌ国際映画祭に招待され、また、200本以上出演したピンク映画の名アクトレスとしても知られる。

 そんな多彩な顔を持つ女優が残した謎の作品『東京の人妻 純子』。その成り立ちを探っていくのは、松江哲明。本作『あんにょん由美香』の演出・構成を担当した彼が、“探偵役”である。

 とかく映画のなかの探偵というのは、謎をほぐしているようで、ますます迷宮をさまよい、しかもヒロイン=ファム・ファタール(魔性の女)に魅かれ、翻弄されてゆくものだが、松江探偵もそれに近い。彼はかつて映画学校時代、実習ドキュメントに出てもらった憧れの林由美香に、完成後、「松江君、まだまだだね」と感想を言われた過去があった。「まだまだだね」の言葉を覆すチャンスが訪れる前に、消えてしまった彼女。松江探偵は行動する。闇雲に行動する。女優・林由美香の代表作『硬式ペナス』『たまもの』『由美香』を撮った3人の監督(カンパニー松尾、いまおかしんじ、平野勝之)のもとを訪れ、それぞれのロケ地を再訪し、時には励まされ、時には厳しい檄を飛ばされて、そしてついにはあのVHSテープの全貌を掴むべく、韓国へと渡るのだった!

 ここからの展開は、むろん伏せておく。だがこれだけは言っておこう。その“捜査”は、姿を消しても彼女が素晴らしきファム・ファタールであることを証明している、と。林由美香を知らない人にこそ観てほしい。

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亡くなった後に発掘された出演作、韓国産ビデオ『東京の人妻 純子』に出合い、改めて愛しの女優・林由美香の足跡を追って韓国へ。近年、『童貞。をプロデュース』『ライブテープ』を発表、現実に対し自ら働きかけ、虚実を超えた“ドキュメンタテインメント”を創出している松江哲明の入魂の作。第64回毎日映画コンクールにてドキュメンタリー賞を受賞。

[週刊SPA!掲載]
●監督:松江哲明●出演:林由美香、ユ・ジンソン、キム・ウォンボク、他●2009年●日本