ジョージ・クルーニー主演作『マイレージ、マイライフ』をご紹介!
レビューをどうぞ!
ジョージ・クルーニー、ジェームズ・ボンド説!?
【概要】マイレージを1000万マイル貯めるのを目標に、年間322日も出張、企業のリストラ対象者に解雇を通告していく男の人生の機微を描く。アカデミー賞5部門にノミネート、監督のジェイソン・ライトマンはシナリオも記し、ゴールデングローブ賞、LA批評家協会賞などで脚本賞を獲得した。
2009年/アメリカ/1時間49分
監督:ジェイソン・ライトマン 出演:ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック
【レビュー】
ジョージ・クルーニーが首切り請負人に扮した『マイレージ、マイライフ』を観ながら、前半ふと思い出したのが、「007」=ジェームズ・ボンドのことだった。
「007」シリーズといえば、最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が2020年4月に公開予定だったのが、コロナの影響で11月に延期となりました。ジェームズ・ボンド役は前作から引き続きダニエル・クレイグ、主題歌はビリー・アイリッシュ、監督キャリー・ジョージ・フクナガ。
クルーニー扮するライアンは、全米中を飛び回って大活躍の日々。年間約9割は飛行機で出張しており、スマートに仕事をこなし、独身主義を貫いて、でも時には大人の関係を築ける女性を抱き、何の不自由もない人生を満喫しているよう。
奇抜な秘密兵器は持ってはいないが、航空会社のマイレージを貯めて、独自にどんどん特典を拡張している。
「007」に任務以外の人間との繋がりが不要なのと同じく、ライアンも家族や友人を求めず、仕事こそが生きがいなのだ。
スパイというのはひそかに敵側の陣営に入り、相手方の機密情報を探ったり盗み出すのが仕事だが、プロのリストラ宣告人の場合は、相手の心に入り込む。
そうして誠意と話術のバランスに気をつけながら、マインドコントロールを施し、気持ちの切り替えをさせ、いわばハートを盗み出す。
国家と会社の違いこそあれど、共に雇われの身。情は備えてはいるが、情に溺れたら負けである。
個人的にジョージ・クルーニーには、できれば「007」役をやってもらいたかったので、こんな重ね方をしちゃったのかもしれないが、ライアンの前に現れる女性、割り切った肉体関係を交わせる同業者(ヴェラ・ファーミガ)や、やり手の新入社員(アナ・ケンドリック)をボンドガールに見立ててみるとまた一興。
後半はこの2人との関係性が物語をツイストさせ、さらにはライアンと家族のエピソードも盛り込まれ、リストラ界の「007」にも別の顔、が表れだす。
つまり、もしも「007」がこれまでの自分の人生を省みることになってしまったら…という映画になってゆくのだ。
監督のジェイソン・ライトマンは『サンキュー・スモーキング』『JUNO』でもそうだったが、ホットすぎずクールすぎぬ、絶妙な温度の映画を作る。この「人生の充足」をめぐる考察は滑稽で、でも真摯で、とても他人事では終わらない。
『サンキュー・スモーキング』のレビューはこちらにあります。
週刊SPA!2010年8月31日号掲載記事を改訂!