繊細かつスリリング。少女たちの内出血した青春
【概要】
若手監督の登竜門、第15回 TAMA NEW WAVE コンペティションにてグランプリ、ベスト女優賞(山田由梨)を獲得した青春ムービー。山田由梨は“贅沢貧乏”という劇団の主宰としても活躍中だ。なお1991年生まれの監督、竹内里紗は高校時代、吹奏楽部に所属し、途中で辞めてしまった経験を持つ。
【レビュー】
これは、極めて珍しいことなんである。大学の卒業制作(2013年度)ながら、都内のミニシアターを皮切りに大阪や名古屋などでも上映され、ソフト化もされた『みちていく』。撮影時21歳、竹内里紗の劇場初監督作だ。
立教大学の「現代心理学部映像身体学科」という何やら難しそうなコースから生まれた映画なのだが、その内容はちっとも難解ではない。むしろ正攻法の撮り方、作劇スタイルで普遍的なテーマを扱っている……のだけれども、特別な、言葉には出来ない“何か”を立ち上らせる映画術を早くも体得しており、瞠目すべき才気を感じさせる。
舞台は、とある女子高。ヒロインはこの2人だ。陸上部のエースと目される梅本みちる(飛田桃子)と、努力がなかなか結果に繋がらない部長の新田舞(山田由梨)。
一見、対照的な関係のようでいて、両者とも「自分はいまだ、何者にもなれていない」と焦り、もがき、心に埋めがたい空白を抱えている。
特にルナティックなみちるは、年上の恋人にカラダをキツく噛んでもらい、“噛み痕”をつけてもらうことでかろうじて精神を安定させており、映画はそんな思春期の少女たちの「内出血した青春」を繊細かつスリリングに描き出してみせる。
主演の2人のあやうい魅力がとっても良く、月の満ち欠けをシンボリックに使っているのも上手い。
もちろん、全く瑕瑾がないわけではないが、原石の輝きが圧倒的。公開時のトークショーには女優の門脇麦や劇作家の福原充則、映画監督の今泉力哉、万田邦敏(大学のゼミの教授でもある)といった面々が登壇、ひとりでもグッとくる名前があれば気に入ると思う。
監督の竹内里紗は、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)で描かれなかった人たちを本作に出そうとした。なぜならば『桐島〜』のなかには自分を仮託できるキャラクターがいなかったから。彼女の意見に「俺も、私も!!」と我が意を得た方々には、激しくお奨めしたい。
週刊SPA!2016年5月3日号掲載記事を改訂!