レビュー『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』不世出の小説家の人生はすごいエピソードの宝庫!

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Photo by Aaron Burden on Unsplash
館理人
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「ライ麦畑でつかまえて」などのアメリカの小説家、J・D・サリンジャーを描いた映画をご紹介!

館理人
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タイトルは『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』。長いタイトルですが、どんな映画かがざっくりとわかりますね。

この映画の雑誌レビュー記事を復刻しま〜す!

データ

世界中の人との青春のバイブルとして読みつがれてきたライ麦畑でつかまえて、その天才作家サリンジャーの春と謎に迫る。
2017年
監督・脚本:ダニー・ストロング
出演:ニコラス・ホルト、ケヴィン・スペイシーほか。

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作家と編集者の一筋縄ではいかない関係

 その男は意を決して声をかけ、目の前の女性に自分の名前をフルネームで伝えたーー「ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー」と。

 相手の名はウーナ・オニール。父親はノーベル文学賞受賞者、劇作家のユージン・オニールで、彼女はしばしサリンジャーと付き合ったのち、かの世界的な喜劇王、何と18歳も年上のチャールズ・チャップリンと結婚してしまうのであった!

 というわけで、ここでレコメンドする映画は『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』である。果たしてどのようなシチュエーションで、不世出の作家サリンジャーはこの驚愕の事実を知るのか、ぜひ直接確かめてほしいのだが、それだけで一本分の題材になるところを本作は、とてもコンパクトに描いている。

 つまりスゴいエピソードの宝庫なのだ、若い頃からサリンジャーの人生は。

 映画は1939年、作家を志してニューヨークのコロンビア大学、創作学科に編入した20歳のサリンジャーにまずフォーカスを当てる。

 そして有名なナイトクラブ「ストーク・クラブ」で出会った例のウーナ・オニールとの恋と破局を挟みながら、第二次世界大戦時のサリンジャーを追いかけていく。

 すなわち、自ら入隊した結果、ヨーロッパ戦線へ。ノルマンディー上陸作戦やヒュルトゲンの森の戦いなどで地を這いずり回り、さらにはナチスの強制収容所の惨状も目の当たりにし、これらが決定的体験に!

 この世の地獄をくぐり抜け、戦争が終わって帰国したのちも長くPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苛まれるのだ。

 さて、サリンジャーが戦場でも草案を練っていた小説が何を隠そう、あの作品だったのである。1951年に発表、唯一の長編にして不朽の青春文学「ライ麦畑でつかまえて」。

 今ならばタイトルを原題どおりに変えた村上春樹の新訳版「キャッチャー・イン・ザ・ライ」のほうが通りが良いか。

 16歳の青年ホールデン・コールフィールドが主人公の、独白形式で書かれた真情あふるる、言葉のパンクロック。

 その背後に、サリンジャーのPTSDが潜んでいることを映画は暗示し、作家として絶頂期に昇りつめていくさなか、表舞台から突然姿を消してしまった謎 にも果敢に手を伸ばしてゆく。

 サリンジャーを演じたのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』や『X-MEN』シリーズのニコラス・ホルト。

 サリンジャーの才能を最初に見出す、コロンビア大学の教授にして文芸誌「ストーリー」の編集長ウィット・バーネット役にはケヴィン・スペイシーが。二人の、一筋縄ではいかない師弟関係も琴線に触れる。

 自身で評伝「サリンジャー 生涯91年の真実」の映画化権を購入したダニー・ストロングの長編監督デビュー作。

 2019年に生誕100周年を迎えたサリンジャーだが、劇中にも少し登場する長女マーガレットのいささか批判的な回想録「我が父サリンジャー」を読んで観るのもひとつの手かも。この映画を補完する意味でも。いかがだろうか?

轟

ケトル2018年12月号掲載記事を改訂!