本物の囚人たちが演じる映画です。企画の勝利!なイタリア映画。レビューをどうぞ!
シェイクスピア劇なのにマフィアの抗争劇の様相も…
【概要】
齢80を超えた監督、パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟の実験的な意欲作。重警備棟監房に服役中の本物の犯罪者たちに劇を演じさせ、その模様を記録。虚実ない交ぜのドラマが展開していく。第62回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で上映され、金熊賞(グランプリ)を受賞した。
2012年 イタリア 1時間16分
監督:パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
【レビュー】
何でもそうだろうが、映画を紹介する場合においても、「その中身を短く的確に要約できるかどうか」は重要だ。『塀の中のジュリアス・シーザー』は楽勝である。「本物の囚人たちが刑務所で、陰謀と暗殺を描いたシェイクスピア劇を演じる」――これで興味が湧かない人は残念ながら、縁がなかったと思うしかない。
舞台となるのはローマ郊外にあるレビッピア刑務所。ここでは実際、更生プログラムのひとつとして、受刑者による演劇実習が定期的に行われているのだ。
イタリアはいわゆるマフィア発祥の地、有名な組織犯罪集団がいくつかあるが、そこに属し、殺人、麻薬密売などに手を染めた人々、つまり終身刑や長期懲役者の皆さんが登場する。
で、プロの演出家の特訓を経て、彼らは一年に1度、一般観客を招いて刑務所内の劇場でお披露目をするわけだが、選ばれた課題はシェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」。ローマ帝国の英雄シーザーの暗殺をめぐる物語だ。
この演劇実習の過程に、カメラは密着する。オーディションの模様から配役、練習の日々を追いかけていく。
なにせ組織犯罪集団に属していた方々なので、殺しやら陰謀やら裏切りに関しては俳優以上に経験が豊富。役柄と自分の過去がシンクロし、罪の意識に苛まれたり、はたまた役と同化しすぎてケンカになったり。シェイクスピア劇がイタリアン・マフィアの抗争劇に見えてくる面白さがある。
監督はカンヌ受賞作『サン・ロレンツォの夜』ほかで知られる巨匠タヴィアーニ兄弟。「ジュリアス・シーザー」を演目に選ぶ時点で相当な策士で、しかもドキュメンタリーっぽく撮っているが、演出を入れているのも明白。
『サン・ロレンツォの夜』は監督・タヴィアーニ兄弟の体験をもとにした、ファシスト支配下にあった戦時のある村の物語。少女の記憶として寓話的に描かれています。
囚人らを利用した、とまでは言わないが、作りたいもののために仕掛けていく姿勢がスゴい。実はこれ、「的確に要約した中身」には到底収まらぬ、いろいろと考えさせる作品なのであった。
(轟夕起夫)
週刊SPA!2013年8月6日号掲載記事を改訂!