「年齢を重ねてなお現役」は憧れ!神!! 映画界のそんな神のひとり、市川崑監督の、85歳のときのインタビューコメント記事を蔵出しです。
変わった作り方をした映画を撮ったのです、『新選組』。アニメでも実写でもない新選組。残念ながら、現在DVD発売もなく、動画配信サービスでも取り扱いがないようです(2020年7月現在)。
仕方ないので、ひらめいたことをまんま実行しちゃった、あやかりたいほどのバイタリティだけ、記事でお届け!
市川崑・プロフィール
いちかわこん(1915年11月20日〜2008年2月)
三重県伊勢市生まれ。本名・市川儀一。
1933年にJ・Oスタジオから振り出して、新東宝、東宝、日活、大映などを経ながら、『三百六十五夜』(1948年)、『結婚行進曲』(1951年)、『ビルマの竪琴』(1956年)、『鍵』(1959年)、『おとうと』(1960年)、『私は二歳』(1962年)、『東京オリンピック』(1965年ドキュメンタリー)など数々の名作を監督。
1973年、崑プロダクション設立後は『犬神家の一族』(1976年)、『悪魔の手毬唄』(1977年)をはじめTVドラマ、CMや、舞台の演出など幅広く活躍。
『新選組』『どら平太』(2000年)、『かあちゃん』(2001年)のあと、セルフリメイク『犬神家の一族』(2006年)を。夏目漱石の原作を10人の監督が撮ったオムニバス『ユメ十夜』(2007年)が遺作となった。
『新選組』・作品データ
怒濤渦巻く幕末に生きた「新選組」の若者たちの姿を鮮烈に描く青春映画。
2000年
原作原画・黒鉄ヒロシ
脚本・佐々木守
監督・市川崑
声の出演・中村敦夫、中井貴一、原田龍二、うじきつよし、石倉三郎、江守徹ほか
市川崑版『新選組』の作品紹介は、こちらにより詳しい記事があります。
インタビュー
読んですぐ、これを僕なりのやり方で映像化したいなと
アタマっから断言しよう。「日本映画ってさ、なんか暗いよねえ」とかなんとか平気でのたまうヤツは、市川崑監督の映画を(1本も)観たことのない輩だ。ダマされたと思って(いやいや、ダマしてないって!)その作品を何でもいいから観てみてみよう。シャープでモダン。奇抜にして典雅。たとえ題材がヘヴィーであってもスタイリッシュなポップ精神は隠しようもない。
……おっと。ちと能書きが過ぎた。
「本屋の店頭で、黒鉄ヒロシさんの『新選組』をパーっと読んだときに、あ、これを僕なりのやり方で映像化したいなと。それも実写でもCGでもなく。原画を切り抜いて立体的にし、それをハンドメイドで動かしちゃおうとね」
どうだ。三次元的立体漫画映画だ。ヒューマン・グラフィック崑メーションの誕生だ!
──と、言われてもまだよくわからない?
「最初はね、TV用にビデオでと考えたんだけど、フィルムで撮って劇場にかけようってことになって。フィルムとなると照明の作業が大変です。生身の人間の顔だって光と影を出すのは難しいのに、大きさが30cmほどの切り絵にライトを当てるんだから。無理難題。でもスタッフにはあえてやってもらいました」
そう。黒鉄ヒロシの原画をコピーで拡大し、ポリウレタンとベニヤ板を張って電動ノコで
切り抜く。そうして大量に作成(1400体以上)した切り絵キャラクター人形を、スタジオで、モニターを眺めながら、スタッフたちの操演でもって全篇撮影した──これは映画の常識を完全に覆すトリッキーな手法なのだ!
鮮烈に生きて散ったその一瞬だけを、とらえたいと思った
「初めての試みだからねえ。専門家に人形を操演してもらうといっても、こういうものを動かすプロなんかいない(笑)。じゃあこれは僕たちの手でやるのが相応しいと。
新選組というのは、忠臣蔵ぐらい有名な話ですから。皆さん、お話がわかってるからそれを下敷きにしとけば、映画的な実験はわりあい自由に出来るんじゃないかなあと考えたんですよ」
明治維新を直前とした幕末。滅びゆく幕府と運命をともにした新選組の軌跡を、新世紀の足音も聞こえてくる2000年にこうして辿り直すということ。しかも変わらず歯切れのいいカッティングと、光と影とが織りなすコン(崑!)ポジションを楽しみながら。こりゃあ一体、なんちゅう体験だろう?
「新選組の歴史といっても、短い激動の時代を鮮烈に生きて散ったその一瞬だけをとらえたいと思ったんですね。調べていくとみんな若くして死んでるんですよ。沖田総司が27歳、近藤勇だって首をはねられたときは34歳ですから。そのへんはポイントではありましたね」
局長の近藤勇。片腕となった副局長の土方歳三。美貌で最強の剣の使い手、沖田総司といった新選組の若き志士たち。彼らの残した“生”の一瞬の光芒は、決して永遠ではないこの切り絵たちの刹那感と、そしてこのまばゆい映像体験のはかなさと、何とマッチしていることだろう……人生もまた、長いようで短い。
さて。オープニングタイトルの主題歌はといえば、熱烈な市川崑ファンで知られるピチカート・ファイヴの小西康陽の手によるもの。
「どうも小西さんの作るリズムというのがね、この映画のタイトルにあうんじゃないかって直感してしまって。それで頼んだんですよ」
直感かよ! 若えなあ。スゴすぎ。
「なんか、今回もいろいろ実験して発見しましたよ。まあね、それが実写に、劇映画にも
跳ね返っていくってことはありますよね」
で、こんなにもアヴァンギャルドな人なのに──「僕はオーソドックスな監督ですよ」と、平然と言ってのけたりもする。トレードマークの煙草を、飄々と揺らしながら。
これぞスタイリッシュなポップ精神だ。
月刊スカパー!2000年1月号掲載記事を改訂!
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