巨匠の傑作【じゃない方映画】3タイトル爆選!! 鈴木清順『悲愁物語』、市川崑『竹取物語』、深作欣二&井上梅次『黒蜥蜴』…は逆に面白い!

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館理人
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名付けて「じゃない方映画」、「この3タイトルのココが面白い」的レビュー!

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市川崑監督作『竹取物語』

かぐや姫は、メカニック円盤に乗って月に帰るウルトラ的宇宙人

「かぐや姫の正体は宇宙人」

 と、発想は斬新かつ大胆だった。日本最古の物語文学をSFエンターテインメントに!

『ゴジラ』シリーズのみならず東宝特撮映画の推進者、大プロデューサー・田中友幸の長年の夢を託され、実現した市川崑監督。だが、当時その批評的な成果は、かなり厳しかったし、監督本人も失敗作と認めていた。

 しかしこれ、市川崑が撮った『ウルトラQ』と考えると、けっこう楽しめるのだ(脚本は菊島隆三、石上三登志、日高真也、市川崑)。

館理人
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『ウルトラQ』はウルトラシリーズの第1作目、1966年に全27話でテレビ放映されました。

 山里に巨大な火の玉が落下してくる。ガラダマか!? 違った。でも中から出てきた加耶(かぐや姫)はちょっとガラモンのようだ(演じたのは沢口靖子←第1回東宝シンデレラ)。

 大伴の大納言(中井貴一)と巨竜との闘い、『未知との遭遇』のマザーシップを想起させる巨大な宇宙船(蓮の花のデザインは、田中プロデューサーの要望。特技監督・中野昭慶!)。それまで、市川崑が撮ってこなかったものばかりだ。

館理人
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『未知との遭遇』はスティーブン・スピルバーグ監督作です。

 そして『ウルトラQ』といえばナレーターは石坂浩二。このアンバランス劇場の幕を閉じるため、彼の扮した帝(みかど)が、もっともらしく話をまとめる。「人間は、まだまだ知らない途方もないものがあることを、知らねばならないのだ」と。

 かぐや姫を授かる夫婦に、三船敏郎と若尾文子。2人とも全編かなり強烈な演技を見せているのだが、最後にピーター・セテラ(元シカゴ)の歌うテーマ曲「ステイ・ウィズ・ミー」が流れ、お馴染みの「完」の文字で、何だかすべてを許せてしまう市川崑版『ウルトラQ』。またの名を、実写版「まんが日本昔ばなし」という。

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鈴木清順監督『悲愁物語』

どっきりカメラからサイコスリラーに転換するスポ根映画!?

 久々に観直してみたら、えらく面白かった。設定は突飛だが、妙にリアルだった。それだけ世の中が狂ってしまった証だろうか。

 鈴木清順監督が『殺しの烙印』で日活を離れ、以後10年間映画を撮れなかったのは有名な話だが、『悲愁物語』はその復帰作。

 梶原一騎の興した三協映画製作で、配給は松竹。主演は“白木葉子”(『あしたのジョー』のヒロインの名を芸名に!)。

館理人
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梶原一騎は漫画原作者として『あしたのジョー』のほか、『巨人の星』『タイガーマスク』などの作品があります。

 彼女を筆頭に、清順監督、原田芳雄、岡田眞澄……当時ゴルフの経験のないメンツで作ってしまった珍妙な“ゴルフ映画”である。

 それでも前半は、わりとちゃんと梶原イズムを継いで“スポ根”しているのだ。アパレル企業のイメージガール候補として新人女子プロゴルファーに白羽の矢が立ち、鬼トレーナーのもと特訓を重ね、全日本女子プロゴルフ選手権で優勝。さらにマスコミの力で一躍時代の寵児となっていく。

 原田芳雄は彼女の恋人、というかヒモで、ゴルフ雑誌の編集長。清順映画の常連、野呂圭介は常に花束を持ってあらわれるファンの役なのだが、彼の代名詞的TV番組「どっきりカメラ」以上にこの映画には「どっきり」が数多仕掛けられており、後半は完全にサイコスリラーに移行する。

 とにかく女子プロゴルファーに顔と名前を覚えてもらえず、嫉妬と逆恨みから自ら車に当たるや強請りを始め、ストーカー的狂気を増幅させていく主婦役の江波杏子が怖すぎ! 家を乗っ取り、TVワイドショーを乗っ取り、もうやりたい放題。

 脚本は大和屋竺。当初のタイトルは「魔女狩り」。操り人形になっていくヒロインが無残で、これはいまリメイクすると面白いと思う。江波杏子の役はぜひ、小池栄子にやってもらいたい。

 ちなみに女子プロゴルファーの弟、ラストにジェノサイド衝動を爆発させる名子役は水野哲。1964年生まれで、THE BEATLOVE(ビートルズのトリビュートバンドでジョンのパート担当)としての活動も。

 この映画、公開時は興行的に惨敗し、2週間で打ち切られたとか。燃え上がるテレビ、弟の姿を木っ端みじんにする、伝説的なショットの衝撃は、一度は体験しておいたほうがいい。

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井上梅次監督作『黒蜥蜴』…深作欣二監督版も!

2本ある映画版はどちらも、クラクラするようなワンダーランド

 世紀の女賊・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎との対決。江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲化した『黒蜥蜴』。

 いままで2本ある映画版はどちらも、クラクラするようなワンダーランドへと連れていってくれるだろう。

 まずは京マチ子主演、1962年の大映バージョンだが、ちょいちょい挟まれる、井上梅次監督ならではのミュージカルタッチが観る者の中枢神経を麻痺させてやまぬ!

館理人
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井上梅次監督作に、石原裕次郎主演『嵐を呼ぶ男』などがあります。

 カメラ目線でこちら側に話しかけるなんて朝飯前、窮地を逃れるために男装し、歌いながら軽やかにステップを踏んで去っていくマチ子蜥蜴のカッコよろしいこと(音楽は三島作詞、黛敏郎作曲)。部下たちも何かにつけてダンスダンスダンス。これは、一種の“レビュー映画”なのだ。

 美術監督は間野重雄(増村保造監督の『盲獣』、それからクレジットはないが三島の『憂國』の美術も!)。

 トランク詰めになる娘、叶順子の下着姿もそこはかとなくエロいが、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』で再び明智役につく大木実のダンディぶりも天晴れである。

 もう1本、1968年に深作欣二が監督した松竹バージョンは、舞台版でも知られる丸山(現・美輪)明宏が主演。全編を彩るナルシストぶりの演出は、『オーラの泉』のそれなんて目ではない。

 明智役には木村功。何といっても大映バージョンとの最大の違いは、剥製にされた男を三島由紀夫が進んで演じたこと。

 誇示される筋肉質の裸体。(三島のリクエストで)黒蜥蜴とのキスシーンもあり。これは美術監督の森田郷平氏に直接伺ったエピソードだが、その股間を隠したいちじくの葉、あれは三島からの要望で、“大きさ”をプロデューサーに聞き、石膏で型をとって作ったところ、撮影当日、三島から「大きすぎるし、それに重い」と注文を受けたそう。

 そこで巷に出たばかりの発泡スチロールを削って、作り直してOKに……ってドーでもいい話でしたか?

 おっと、井上梅次監督は1979年、天知茂と小川真由美共演のTVドラマ『江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女』も演出。こちらは実に、“エロシブ”な逸品でありました!

(轟夕起夫)

轟

映画秘宝2007年11月号掲載記事を改訂!