『さよなら、ぼくのモンスター』(2015年)は、ちょっとタイトルから内容を想像しにくい映画ですが、繊細な青春模様を描いています。
ステファン・ダン監督作、コナー・ジェサップ出演。レビューをどうぞ!
ゲイだとカミングアウトしているカナダの新鋭監督、ステファン・ダンの半自伝的な長編デビュー映画
26歳にして2015年のトロント国際映画祭で最優秀カナダ長編映画賞を獲得し、さらに他のアワードにも輝いて、ステファン・ダンは一躍、若手有望監督の仲間入りに。
オスカー役の美青年コナー・ジェサップは、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮のSFテレビドラマ『フォーリング スカイズ』のメインキャストのひとりとしても知られる。
『フォーリング スカイズ』はエイリアンに支配された地球でレジスタンスが蜂起。第五シーズンで完結しました。
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『さよなら、ぼくのモンスター』という邦題を付けられたこの映画、一体どんな内容を想像します?
タイトル通りに素直に考えるならば、主人公の「ぼく」が周囲に隠して「モンスター」を飼っていたものの、それが見つかってしまい、「さよなら」をしなくてはならなくなる、と。
まあ、そういった設定と展開が浮かんだりもするのだが、原題は『クローゼット・モンスター』でして。さて、その意味を説明する前にまずは物語のアウトラインを――。
高校生のオスカーは特殊メイクアーティストを目指しており、女優志望の友人をモデルに自己PR用のポートフォリオを制作する日々。
そんなある日、彼はバイト先で知り合った同僚のワイルダーに心を射抜かれてしまう!
と、ここで登場人物のネーミングに注目してほしい。
2つを繋げると同性愛であることを糾弾された、19世紀末の文豪「オスカー・ワイルド」に。
つまり本作は、ゲイだとカミングアウトしているカナダの新鋭監督、ステファン・ダン(1989年生まれ。若い!)の半自伝的な長編デビュー映画なのだ。
ステファン・ダン監督は長い時間をかけ、苦悩の末に、自らのセクシャリティを確立していったのだとか。
従って劇中の分身キャラ、オスカーも大いに悩み、もがく。
ユニークなのはその表現方法、映像スタイルで、同性愛をめぐる過去の事件のトラウマによってオスカーは嘔吐や腹痛に襲われるのだが、それがさながら(同じカナダ出身の)デヴィッド・クローネンバーグ監督的悪夢テイストで描きだされるのである。
原題にあった「クローゼット」という言葉は、暗喩として自分のセクシャリティを隠すことを指す。
が、この映画は特定の観客用などではない。オスカーが傷つきながらも自分自身を愛する術(すべ)を学んでいく姿は、多くの人に刺さるはずだ。なぜなら青春時代、誰もが自分のなかの“モンスター”と格闘して大人になっていくのだから。
週刊SPA!2018年2月6日発売号掲載記事を改訂!