英国の巨匠ケン・ローチ監督のパンクな逸品。不寛容な現実に立ち向かうワーキングクラスヒーロー『わたしは、ダニエル・ブレイク』

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Photo by Nicolas Picard on Unsplash
館理人
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『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)のご紹介! 出演はデイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズほか。

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レビューをどうぞ!

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還暦を迎える大工職人の闘志に泣き笑い

原題『I, Daniel Blake』。前作の『ジミー、野を駆ける伝説』を最後に映画界からの引退を表明していたケン・ローチ監督が引退を撤回してまで発表した作品。

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元活動家のジミーが、戻ってきた地元で若者とともに地域活動をすることになる『ジミー、野を駆ける伝説』(2014年)は、実在の人物を描いています。

カンヌ国際映画祭に出品され、最高賞パルムドールを受賞。ちなみに審査員長を務めていたのは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の監督ジョージ・ミラー!

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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はアカデミー賞で10部門にノミネート、6部門で受賞したバトルアクション映画。

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 最近、これほど“パンク”を感じた映画はなかった。タイトルは『わたしは、ダニエル・ブレイク』。監督は英国を代表する巨匠ケン・ローチである。

館理人
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ケン・ローチ監督についてのドキュメンタリー、あります。『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』

監督作は『麦の穂をゆらす風』(2006年)などがあります。

アイルランド独立戦争以降、対立することになる兄弟を描いてます。こちらも、『わたしは、ダニエル・ブレイク』同様、カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルム・ドールを受賞しました。

 ケン・ローチといえば「社会派」と紹介されるのがつねで、実際それは全然間違ってはいないのだが、しかし「社会派」の三文字のみで「小難しい作品なんでしょ」と判断&敬遠してしまうのは本当にもったいない!

 口は悪いが気のいいオッサン、ダニエル・ブレイク。妻を亡くしたひとり身で、まもなく還暦を迎える大工職人だ。

 が、心臓を患い、医者から仕事を止められ、そこで国からの援助を受けようとしたのだが、彼の前には理不尽な役所の対応と、けんもほろろな、人を邪険に扱う社会制度が立ちはだかる。

 舞台となっているのは英国の都市のひとつ、ニューカッスルだが、これは今、きっと多くの国々で起こっている問題に違いない。

 むろん、ここ日本でも。

 つまり、利便性を追求していたはずがどう捻れたのか、人を救うべき担当者もシステムも一際“不寛容”な存在になってしまうという、シビアな問題だ。

 さて、ではこのダニエル・ブレイクはどうするのか?

 心に中指を立てながら逆に闘志を燃やし、しかも、同じように無慈悲なシステムから弾き飛ばされた若きシングルマザーに救いの手を差し伸べるのだ。

 演じるデイヴ・ジョーンズは映画初出演。本業はコメディアンだが、この“ワーキングクラスヒーロー”に確かな血肉を与えている。

 監督がケン・ローチなのだから当然、“ヒーロー”と言っても万能などではなく、次々と厳しい現実がひたひたと押し寄せてくる。

 もしかしたらパソコンを使えない主人公を、そして若くして2人の子供を抱えてしまったシングルマザーのことを「自己責任!」と切り捨てる人もいるかも。

 だが、明日は我が身だ。観ればズボッと映画に感情移入して“泣き笑い”、あなたも心のなかの中指を立てていることだろう。

轟

週刊SPA!2017年9月19、26日号掲載記事を改訂!