イギリスの映画のご紹介。
『未来を花束にして』(2015年)の監督はサラ・ガヴロン、主演はキャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、メリル・ストリープほか。
レビューをどうぞ!
実話を元にしているけれど、主人公は架空の女性としたワザあり秀作!
主要スタッフは女性陣が固めており、監督サラ・ガヴロンは長編映画デビュー作『Brick Lane』(2007年)でも次第に自立してゆく強いヒロインを描いていた。
その脚本を担当したアビ・モーガンは、本作でエメリン・パンクハーストを演じたメリル・ストリープの『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011年)も書いている。
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さて。ワザありの作品なのである。
映画が始まると1912年のイギリス、首都ロンドンの洗濯工場の様子が映しだされる。そして、音声で当時の女性たちの置かれた状況が手短に紹介され、字幕で次のような説明が入る。
「数十年の間、女性は男女平等と参政権を平和的に要求してきたが無視され続けてきた。急進的な参政権論者のエメリン・パンクハーストは全国的な抵抗運動を呼びかけた。これはその運動を闘った女性労働者団体の物語である」
つまり実話で、どうやら『未来を花束にして』というポエジーな邦題からは想像のつかない“ハード”な映画なのだ。
で、主人公は、名前の出てきたエメリン・パンクハースト……と思いきや、キャリー・マリガン扮する架空の人物、映画のために作られた“モード・ワッツ”なるキャラクターが硬派な物語を率先して引っ張っていく。
夫と幼い息子と3人暮らし、劣悪な環境の洗濯工場で働く彼女はノンポリだったものの、次第に女性参政権運動に目覚め、自分の生活を犠牲にしてまで過激な運動に身を投じる。
男社会に虐げられていても「それは運命……」と長年諦めていた一介の女性が、身も心も傷だらけになりながら“活動家の顔”になってゆく。
キャリー・マリガンが入魂で演じたこの“モード・ワッツ”は、あの時代に立ち上がった(数えきれぬ)無名の女性たちの代表だ。
史実に残るカリスマ的リーダー、エメリン・パンクハーストを主人公にする手もあったが、われわれが感情移入できるのは断然こっちだろう。
しかもワザありなのは終盤、“モード・ワッツ”を一転、主人公ではなく歴史の目撃者にし、代わってエミリー・デイヴィソンという実在した女性の「あっ!」と驚く行動がフィーチャーされるのだ。
すなわち全編、架空のキャラを補助線的に使い、幾何学問題の証明のごとく真実を浮き上がらせる方法! これを“ワザあり”と言わずして何と言おう。
週刊SPA!2017年8月1日発売号掲載記事を改訂!
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