小西真奈美主演作、『のんちゃんのり弁』のレビューをご紹介です!
パンクスピリッツ溢れる監督が描く迷えるアラサーママ
原作は1995〜1998年に「週刊モーニング」で連載された入江喜和の漫画。
監督の緒方明はこれで長編3本目。過去2作とも評価は高く、『独立少年合唱団』は第50回ベルリン国際映画祭アルフレード・バウアー賞、『いつか読書する日』はモントリオール世界映画祭審査委員特別賞に輝いた。
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美人を逆境に置くと映画が面白くなる——という定理を証明した本作。
“のんちゃん”とは主演の小西真奈美のことではない。彼女は永井小巻、31歳。ダメ亭主(岡田義徳)に愛想を尽かし、幼稚園児のひとり娘(←こっちが、のんちゃん)を連れて、実家に戻ってくる。
実に、単刀直入な導入部だ。
小巻は東京・下町生まれ。快活で、ポジティブ。さっそく自立しようと仕事を探すのだが、しかーし。これまでなんにも考えずに生きてきた彼女は空回りしてばかり。そりゃあそうだ。甘い。甘すぎるのである!
そんなふうに受難の物語を用意し、結果、逆境と闘うヒロインの映画へと昇華。全編、喜怒哀楽を思いきり爆発させる「今まで見たことのない小西真奈美の魅力」を引き出したのは、本作の監督、緒方明。怒れる男である。
なにしろ大学時代に早くも、石井聰亙(現・石井岳龍)監督の『狂い咲きサンダーロード』の現場を経験(助監督のみならず出演も)。
『狂い咲きサンダーロード』は、石井監督の学生時代のインディペンデント映画にして、全国公開されるに至った作品です。
この映画に使われたコピーは「地獄まで咲け、鋼鉄の夢」「ロックンロール・ウルトラバイオレンス・ダイナマイト・ヘビーメタル・スーパームービー」!
パンクスピリッツを携えて、1990年代にはTVのドキュメンタリーで活躍。つまり取材好き。
この映画を作るために、現在のアラサー女性をリサーチし「昔と違って精神的に幼い」との実感を掴んだという。ラクに過ごせる自分の居場所探しではなく、“行き場所”を見つけろ。それは生き場所でもあるのだから。緒方監督は迷えるヒロインの姿を通じ、そう熱く吠えている。
さて、この監督の分身ともいうべき劇中の登場人物が、小料理屋の店主だ。演ずる岸部一徳が絶品。
弁当屋を目指す小巻を叱咤激励し、作る料理がまた上手そうなこと。緒方監督は「彼のような職人になりたい」と、本作で宣言しているようにも思える。
実際その職人ワザは、ダメ夫と小巻が小料理屋で繰り広げる乱闘場面を観れば、一目瞭然。右の拳をギュ〜っと小西真奈美が握って、相手の顔面に打ち込むまでの間(ま)の良さ。的確なカット割り、一瞬挿入される俯瞰ショットも見事。しかも、ダメ夫の心情もすくい上げ、単なる「頑張れアラサー女子」映画にはしていない。いわば手をかけているのり弁の味。ご馳走さまでした。
出演は小西真奈美をはじめ、岡田義徳、村上淳、佐々木りお、ほか
週刊SPA!2010年2月16日号掲載記事を改訂!