『セッション』は、アカデミー賞では作品賞をはじめ、助演男優賞、脚色賞、編集賞、録音賞を受賞しました。他、世界各地での映画賞で数々の受賞を獲得しています。
音楽映画なのにアクション映画の迫力がある作品!
監督はデイミアン・チャゼル、出演はマイルズ・テラー、J・K・シモンズ、他。
『セッション』で高評価を受けた監督は、映画『ラ・ラ・ランド』でも大ヒットを放ちました。
主人公の怪物性が開花するクライマックスに釘付け!
この映画を観たあとは感情が高ぶって、ハイテンションのまま、しばらくはバディ・リッチ師匠の神技ナンバーばかり聴いていた。
超速かつ長尺で刻み続ける超絶テクニックを持つすごいドラマーです。
ジャズ史のみならず、ドラマー史上の神々のひとり。その驚異のドラミング、超高速シングルストロークは味わえば味わうほど虜に。「もっと、もっと!」とカラダが欲しがる始末である。
なかでも、56歳のときにリリースした名盤〈THE ROAR OF ’74〉が最高だ。
パワフルなドラムにアグレッシブなブラスセクション。これぞビッグバンドスタイルの醍醐味で、特に代表曲〈Time Check〉の疾走感はハンパなく、(新星マイルズ・テラー演じる)本作の主人公、アンドリュー・ニーマンがリッチ師匠に憧れているのも納得なのだった。
空手の有段者で、ハナ肇みたいなルックスと体型の持ち主(……喩えが逆か)であったリッチ師匠は音楽に取り組む姿勢が厳しく、率いていた楽団、バンドメンバーたちをよく大声で叱責、罵倒した。
リッチ師匠とキャラ被り(?)なハナ肇は昭和のコメディアン。コミックバンド「ハナ肇とクレージーキャッツ」のリーダーで、ドラマーです。コメディ映画も多数!
こちら、「寅さん」の山田洋次監督作で、寅さんの「さくら」こと倍賞千恵子も出演!
極上のタイム感をキープするため各パートの演奏をチェックし(まさしくTime Check!!)、ミスしたら自身のスティックを投げてぶつけることも度々だったという。
リーダーとして常に、最大限の能力を発揮することを要求した結果だが、再び映画のほうに話を戻すと、主人公の目の前に立ちはだかる音楽院の鬼教官フレッチャー(祝アカデミー賞助演男優賞、J・K・シモンズ)もそうなのである。ただし、やり方はかなり度を越している。
ハンク・レヴィの超技巧曲“WHIPLASH”(=鞭打ち。これが本作の原題)を練習させ、学生たち並びに主人公をシゴきまくる。徹底的な強権独裁のもとに。
ハンク・レヴィはジャズ作曲家でサックス奏者。
こちらサウンドトラック!
高校時代の自身の体験をふくらませて映画へと結実させ、長編監督デビューを飾ったデイミアン・チャゼルは、「演奏場面のひとつひとつを、あたかも生死を分けるカーチェイスや銀行強盗のように撮りたかった」と語っているが、その目論みは十中八九、成功したと言ってよい。
きっと彼の感覚体にはビッグバンドのグルーヴが内蔵されており、そいつを「映画というオーケストラ」を駆使して思いっきり表出したのだ。
では、“変成器”に何を用いたか?
例えば劇中、主人公が父親と映画館で観る作品は、ジュールス・ダッシン監督の『男の争い』(1955年)。
あの忌まわしき赤狩りによってハリウッドを追われ、フランスに渡って発表したフィルム・ノワールの先駆的な傑作だが、ミシェル・ルグランの音楽が変拍子のビッグバンドスタイルで、「WHIPLASH」を彷彿させる。
おまけに20数分にわたる有名な宝石強奪シーンがあって、ギャングたちが台詞を発せず、現実音だけで事態が展開する。本作のクライマックスは、それに倣った大胆な手法で9分19秒の“セッション”を見せきっている。
つまりはニーマン対フレッチャーの一騎打ち。
バディ・リッチには、マックス・ローチとドラム合戦を繰り広げた企画盤〈リッチVSローチ/2大ドラマーの対決〉があるけれども、あんな風に“敵対”する二人は次第に融合してゆく。
そうして主人公の怪物性が開花して、実はこれが才能を食い合う「モンスター映画」であったことに気づき、慄然とするのであった。
キネマ旬報2015年5月上旬号掲載記事を改訂!
主演マイルズ・テラーは、演じるにあたってジャズドラムを習得しており、実際に彼が演奏して演じています。