読む映画リバイバル『ラブリーボーン』

殺された少女の「無念と後悔と怒り」に同化し、ピージャクのイマジネーションも奔放に暴れ回る

(2010年7月13日発売号より)

 ピージャクこと、ピーター・ジャクソン監督の久々の新作ということもあって、期待が大きかったのだろう。『ラブリーボーン』は公開時、賛否が真っ二つに分かれた映画だった。しかも、割合からいえば圧倒的に「否」のほうが優勢。スーパーナチュラルな死生観、異界の映像化に対し、「丹波哲郎の『大霊界』みたい」だの「支離滅裂で何を描きたいのかわからん」だの、皆さん、相当にご立腹の様子であった。

 が、筆者はこう思った。

 これは14歳のヒロイン、スージーをめぐる、『不思議の国のアリス』ならぬ“スージー・イン・ワンダーランド”なのだと。彼女はトウモロコシ畑に穿たれた穴の中に入って、ワンダーランドへと旅立つ。その穴は今までも数々の少女を捕獲してきた罠。淫楽殺人者(スタンリー・トゥッチが憎らしいほどイイ!)の手にかかり、スージーは死に、だが“天国の入り口”とやらに留まり、下界を見守ることに。つまり、何とも悪趣味かつ切ないファンタジーなのだ。

 このテイストがまず、ピージャクらしいのだが、主人公が死んでから本作は、ピージャク版『時をかける少女』になっていくのである。タイム・リープ(時空移動)を繰り返すヒロインの「無念と後悔と怒り」に同化し、ピージャクのイマジネーションも奔放に暴れ回る。アリス・シーボルドの原作に依拠しつつ、生と死の一大パノラマを描き出してゆく。

 さて、作品に乗れなかった人も、ヒロイン役、シアーシャ・ローナンの名演は誰もが認めている。以前『つぐない』で13歳にしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされていたが、実力は本物である。

 それにしてもピージャクの心の中には“乙女”が棲んでいるのではないか。彼はハリウッドデビュー作『さまよう魂たち』や、ベネチア国際映画祭銀獅子賞に輝いた『乙女の祈り』でも少女の心性にガチで寄りそっていた。今回は(同じく髭、髪モジャがトレードマークの)大林宣彦監督並み。『ロード・オブ・ザ・リング』ファンには無理して薦めないが、大林映画好きにはプッシュしておこう。

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わずか14歳で殺され、“天国の入り口”で留まり続ける少女の成長譚を最新VFXを駆使して活写。アリス・シーボルドの同名小説を『キング・コング』のピーター・ジャクソン監督が映画化。原作のファンで、それをジャクソンに紹介したのは彼のパートナー、脚本家のフラン・ウォルシュである。音楽はブライアン・イーノ!

[週刊SPA!掲載]
●監督:ピーター・ジャクソン●出演:シアーシャ・ローナン、他●2009年●アメリカ、イギリス、ニュージーランド