読む映画リバイバル『市川崑物語』

巨匠に迫るドキュメンタリー。とはいえこれは“岩井映画”そのものである

(2007年7月3日号より)

 ’60年代生まれのクリエイターには、その影響を多大に受けた“市川崑チルドレン”が多い。なぜか? 物心ついた時分に市川監督の、金田一耕助シリーズ(’76〜’79年)と出会ってしまったからだ。

 そんなチルドレンのひとり、岩井俊二が『市川崑物語』を作った。日本が世界に誇る、いまだ現役で活動し続ける巨匠の全貌をドキュメントする試み。とはいえ、限られた時間内で全体像に迫るなんて土台無理な話だ。ではどうしたか。自分にとっての“市川崑”を描いたのだ。

 数々のエピソードを紡ぎながら、それは次第に、岩井自身のルーツを辿る旅になっていく。すなわち子供の頃のファーストインパクト、金田一シリーズ第1弾『犬神家の一族』(’76年)との邂逅。黒バックに白文字の、明朝体のタイトルデザイン。グラフィカルで斬新なカット割り……この師匠の実験精神にならい、本作の手法も大胆だ。ナレーションは一切ない。スチールとわずかな再現場面、ときおり重要作品の断片映像をつないで、テロップを巧みに入れていく。計算の行き届いた構成で、飽きさせない。ちゃんと市川崑映画を観たくさせるのもお見事。

 そして白眉なのは生涯の伴侶、由美子さんに関する描写。彼女は名脚本家・和田夏十となり、市川監督を公私ともに支えたが、あえなく病に倒れてしまう。残された優しい微笑み。喪失感と切なさ。岩井監督の日韓W杯、日本代表の密着ドキュメント『6月の勝利の歌を忘れない』もそうだったが、本作も感動的、胸の奥がキューンとなる、“岩井映画”そのものなのであった。

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岩井監督としては『花とアリス』(’04年)以来の新作。彼ならではの視点と方法論で、憧憬と敬愛を込めて巨匠の軌跡を綴る。もとは市川監督がセルフリメイクした『犬神家の一族』(’06年)のメイキングだったが、劇場公開するにあたり、コンセプトを変えて作り直した。岩井監督自らのピアノの音色が涙腺を大いに刺激する。

[週刊SPA!掲載]
●監督:岩井俊二●2006年●日本