ドキュメンタリーのご紹介!レビューをどうぞ
「最高のファッション・ショーは常にストリートにある」
【レビュー】
映し出されるのはニューヨークの街角。そこに(パリの道路清掃係が制服にしている)青い作業着を身に着けたおじいちゃんが登場し、道往く人に踊るように近づいては手にしたカメラを向け、ニコニコと軽やかにシャッターを切っていく。
ちょっぴり動きがヘンで、ヤバい人にも見えるこのおじいちゃんの名前を冠せたドキュメンタリー映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』。
驚くなかれ、8年がかりの出演交渉の末、OKを得たはいいが撮影と編集に2年、合わせて10年もの製作期間を経て完成したのだそう。
初めはこう思う。「そんな年月を費やして撮る必要のある人なのか?」と。
しかし観終わったあとは「よくぞ頑張った、感謝!」とスタッフを称賛したくなる(監督したのはこれが長編デビュー作のリチャード・プレス)。
さてビル・カニンガムは、「ニューヨーク・タイムズ」の名物ファッションコラムと社交コラムを担当、50年以上にもわたりファッショントレンドを撮影してきた写真家にして、ストリート・スナップの先駆者である。
こういう業界にいても彼自身はファッショナブルではない。質素な生活をし、むしろ禁欲的で、それでいてみすぼらしくはなく実に楽しそうに、「最高のファッション・ショーは常にストリートにある」と日々現場に立ち続ける。
ポリシーというか、服を見るときのポイントはこうだ。「実際に着られそうかどうか。モデル以外の身体に合うかどうか。着る女性がいない服には興味がない」。
人ではなく主役はあくまで服で、身銭を切っていない、単に着飾っている有名人など無視する。一事が万事、自分のルールに則って仕事をし、その流儀を世界に認めさせてきた。どうかグッとくる数々の至言を聞いてほしい。そして好きなことを仕事に選んだ男の、人生の裏側を覗いてもらいたい。「働く」という行為の深遠さが改めて見えてくると思うから。
(轟夕起夫)
週刊SPA!2014年2月4日号掲載記事を改訂!