シカゴ在住のパキスタン人役者が、脚本と主演を担当し、自身の妻とのストーリーを映画化! アカデミー賞では脚本賞にノミネートされました。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017年)。監督はマイケル・ショウォルター。
レビューをどうぞ!
赤裸々にして、信じられないような奇跡に満ちたドラマティックな人生の一幕を実演!
パキスタン人の駆け出しのコメディアンと、セラピストを目指すアメリカ人大学院生の異文化カップルが巻き込まれた難病。アカデミー賞脚本賞にノミネートされた奇跡のトゥルーストーリー。
・ ・ ・
実話の映画化——と聞いて、「おっ」と前のめりになる方は今どき皆無に近いだろう。そういった作品は無数に公開され、何ら珍しい代物ではないからだ。
では、これはどうか?
実話の当人が「経験したことを自ら演じた」映画。これからご紹介する『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』はまさにそれで、パキスタン出身、アメリカはシカゴ在住のスタンダップ・コメディアン、クメイル・ナンジアニがその数奇な人生の一幕を実演しているのだ。
感想を述べれば、赤裸々にして現在のアメリカの断面がよく分かり、そして、信じられないような奇跡に満ちていてドラマティック! ぜひ前のめりになって、注目してほしい。
クメイルの父は大金持ちの医者で、移住したシカゴでも成功者だ。
が、彼は同じ道には進まずに、芸人を志している。アメリカでは近年、インドやパキスタン系のコメディアンが人気。ではあるもののクメイルはまだ、小さなクラブに立つのがやっと。
ある日、そこでのトークライヴに来ていたお客と意気投合し、付き合い始めることに。名前はエミリー。白人女性で、心理学を勉強しているセラピスト志望の大学院生である。
つまりは異文化カップルの物語なのだが、二人のあいだには様々な障壁が立ちはだかる。
まずパキスタン並び南アジア社会では、お見合い結婚をするのがスタンダード。親や親戚が選んだ相手と(半ば強制的に)結ばれなければならない、と。
しかしクメイルはイスラム教徒ながら、あまり真剣には宗教に向き合っておらず、髭も綺麗に剃っており、自由恋愛を楽しんでいる身だ。
一方、家族も大切にし、縁談に熱心な、伝統を重んじる母親の顔を立て、形だけは用意されたお見合いを繰り返す。ところがそのことがエミリーにバレて、二人の関係に終止符が打たれてしまう!
おまけに彼女は原因不明の重い感染症にかかり、クメイルが病院に駆けつけると医者から「治療のために薬で昏睡状態にする必要がある」と説明を受ける。
家族の代わりにサインをし、深い眠りについてしまったエミリー。彼に待っていたのは、別れるまでの経緯を娘から聞き、怒り心頭のエミリーの両親……って、こんな波瀾万丈なストーリー、シナリオ学校で書いたら「リアリティがない」と一蹴されてしまうはず。
だが、書いたのはクメイル本人とその妻、エミリー・V・ゴードン。これはネタバレにあらず。なぜならば本作のポイントは、彼女の“昏睡状態中”にあるのだから。
すなわち、クメイルとエミリーの両親(扮したのはレイ・ロマーノとホリー・ハンター!)との、喜怒哀楽の詰まった、豊かなドラマである。
エミリー役にはゾーイ・カザン。あの愛すべき恋愛映画『ルビー・スパークス』のヒロイン、脚本、製作総指揮の3役をこなした才女だ。
クメイルとのコンビネーションも申し分なし。
登場人物ひとりひとりのバックボーンが垣間見え、生きたキャラクターがそこにいる。
現実を切り取りつつ、ユーモアの力を最大限発揮した、見事な実話系ロマンティック・コメディだと思う。
ケトル2018年2月発売号掲載記事を改訂!
本人が本人役で主演している映画は他にもありますが、ミュージシャンが多いです! そんなミュージシャン本人が出演の映画については、こちらでご紹介しています!