『炎上』(1958年)は市川崑監督作、出演は市川雷蔵、長門裕之、 船越英二、ほか。
ちなみに市川雷蔵については、こちらで詳しく紹介してます。
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流麗な口跡、声の良さを封じて新境地を開拓!
市川崑監督は当初、主役に川口浩を想定していた。だが、大映の永田雅ー社長は猛反対。
そんな経緯があり、起用された市川雷蔵だったが、無ロで吃音のある主人公・溝ロ吾市を演じるにあたり、自らの武器のひとつ、流麗な口跡、声の良さを封じて新境地を開拓した。
原作のもとになったのは1950年の金閣寺全焼事件である。
当時21才の同寺徒弟、林養賢が金閣の美への嫉鉐、寺内の封建的因習への不満から放火。彼は自殺をはかるも逮捕、収監され、満期釈放後に京都府立洛南病院に措置入院、結垓で1957年に死んだ。
原作と三島由紀夫の取材ノートから脚本化、劇中では「驟閣寺」に変えられている。
三島由紀夫はこの事件を小説「金閣寺」にしています。
これは金関寺側が映画化を反対したからだ。従ってロケではない。
西岡善信を筆頭に美術部数名で“古建築研究会”と称し変装して、再建された金閣寺に入り内部写真を撮り、セットを製作した!
このエピソード、国会議事堂でゲリラ撮影をした『太陽を盗んだ男』(1979年)を彷彿とさせる。
『太陽を盗んだ男』は長谷川和彦監督作。国家相手に原爆を作る中学校教師を沢田研二が演じました。
ついでにこじつけて言えば、主人公・溝ロ吾市の屈折した孤独感、神聖さへの愛憎と反発は『太陽を盗んだ男』の主人公・城戸誠のメンタリティに近いかも。
ちなみに雷蔵は、生後6ヶ月と、それから20歳のとき、因襲根深い歌舞伎界で生きるため2度養子に出されており、複雑な境遇が役柄とシンクロしたと評された。
クライマックスの有名な炎上シーン。モノクロで捉えられた夜空にキラキラと渦巻く幻想的な火の粉。名キャメラマン・宮川一夫の真骨頂である。
なお雷蔵自身、俳優として忘れることのできない作品として溝ロ健ニ監督の『新・平家物
語』(1955年)と本作を挙げている。
映画秘宝2004年10月号掲載記事を改訂!