読む映画リバイバル『コーマン帝国』

あっぱれのドキュメンタリー

(2012年2月号より)

 よくぞ付けたり、この邦題! 『コーマン帝国』ときたもんだ。何それ?って方にはまず「ロジャー・コーマン」という名前から知ってもらおう。

 1926年ミシガン州デトロイト生まれ。どんな人物かを説明するには、彼の自伝タイトルを紹介するのが手っ取り早い。すなわち『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』(早川書房)。『コーマン帝国』は、かの名著を映像へと移し替えたかのような、よく出来たドキュメンタリー映画だ。

 コーマンは膨大な数の作品に関わってきた未だ現役の監督兼プロデューサーであり、B級(=低予算)映画の帝王にしてインディペンデント映画の巨人でもある。製作費は絞りに絞り、創意工夫で勝負するのが持ち味。驚くべき早撮りで、新人でも見込んだら即戦力として登用し(ただし低賃金でこき使い!)、彼の現場はプロへの登竜門となり、実践的な映画学校「コーマンスクール」と呼ばれてきた。

 本作ではその卒業生たちがインタビューに答えて、語る語る。ロバート・デ・ニーロ、マーティン・スコセッシ、ピーター・フォンダ、故デヴィッド・キャラダイン、ジョナサン・デミ、ピーター・ボグダノヴィッチ、ジョン・セイルズ、ロン・ハワード……そして盟友ジャック・ニコルソン! コーマン本人も登場し、代表作のフッテージを交えながら半生を回想してゆく(やはり因縁深いコッポラとジェームズ・キャメロンは、ノーコメントでしたけれども)。

 その足跡を辿ればイコール、アメリカの大衆史、サブカルチャー史になってしまうわけだが、50年代はチープなSF映画『原子怪獣と裸女』『金星人地球を征服』などでひと儲け。60年代はエドガー・アラン・ポー原作の諸作でワザを見せ、つねにティーンエイジャーを刺激する企画を考えドライブイン・シアターにも力を入れ、興行を成功させてきた。時流を掴み、本物の暴走族ヘルズ・エンジェルスを使ったバイカー映画の先駆、『ワイルド・エンジェル』を作り、ピーター・フォンダを続けて起用、脚本はニコルソン、デニス・ホッパーも出演した『白昼の幻想』と合わせて、『イージー・ライダー』の登場を予告した。70年代の女囚物(そういえばパム・グリアも卒業生だ!)ほかのエクスプロイテーション・ムービーの数々も素晴らしい。

 が、80年代以降はだんだんジリ貧に。“過去の人”になりかけていたが、09年、米映画芸術科学アカデミーより、名誉賞を授かる。受賞式を描くところも良かったが、最高なのがこれ。インタビュー中、想い出に感極まり、ニコルソンが泣く(やっぱいい奴だな、と誰もが思うはず)。そこにカットバックされるのは、老いてなお映画に情熱を傾けるコーマンの姿(でも電話の内容は、実にクダラないっ!)。初監督のアレックス・ステイプルトン女史、ナイスな“編集つなぎ”。ちなみに本作では触れられていないが、コーマンが倹約主義なのは幼少時に、あのアメリカ大恐慌を経験したからだとか。ちょっとグっとくるエピソードである。

********

50本を超える監督作・500本を超えるプロデュース作を発表した「インディペンデント映画の神」、ロジャー・コーマンの素晴らしき人生を描く珠玉のドキュメンタリー

[ケトル掲載]
●監督:アレックス・ステイプルトン●出演:ロジャー・コーマン、ジュリー・コーマン、ジーン・コーマン、他●2011年●アメリカ