読む映画リバイバイル『宇宙人ポール』

轟夕起夫の子どもの頃を呼び覚ます『宇宙人ポール』

(2011年12月号より)

 わりと多くの人が目撃しているものだと思うが、子供の頃、UFO(未確認飛行物体)を見たことがある。所属していた地元のサッカークラブの試合中に。突如、上空を漂うオレンジ色の2つの物体に目を奪われてしまったのだ。その物体は異様に不規則な飛び方をすると、パっと消滅した。で、俺だけではなく、相手の小学生チームの選手の中にもひとり、注目してたヤツがいて、互いに足を止め、一瞬だけども顔を見合わせて「さっきのって……UFOだったよ、な?」とアイコンタクトしたのを、今もよく覚えている。

 あれからUFOは、目の前に全く姿を現わさなくなったが、あのときの経験はわりと重要で、大きく言えば人生の価値基準にも何らかの影響を与えられた気も。つまり人というのはいつまでも、子供時代の記憶を引きずって生きていくものなのだ。映画『宇宙人ポール』の主人公、英国生まれの二人組もそうで、彼らは少年時代からの夢、アメリカ西部のUFOスポット巡りのためにRV車をレンタルして出発する。と、ネバダ州のUFOの聖地、エリア51付近で“ポール”と名乗る宇宙人と遭遇してしまうのであった。

 何とデタラメな展開!

 しかしこれ、日本では到底できない、オモロいSFコメディに仕上がっている。脚本を担当し、主演も兼ねたのは『ホット・ファズ  俺たちスーパーポリスメン』のサイモン・ペッグ&ニック・フロストのコンビで、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のグレッグ・モットーラが監督という「分かる人には分かる」ナイスな布陣。モットーラはこの映画を作りながら、『未知との遭遇』や『E.T.』を初めて観たときの気持ちを思いだしたそう。誰もが、子供時代の記憶と共に生きているのである(それに応えて、監督のスティーブン・スピルバーグがまさかの“出演”を!!)。

 さて劇中では宇宙人ポールが大活躍だが、現実を眺めれば、去る11月、米ホワイトハウスが国民の請願に対し、政府の公式見解を明らかにした。すなわち「地球外に生命体が存在する証拠、さらにはそれが人類に接触してきた証拠はない」と断言したのだ。ただし、その存在の可能性自体については否定しなかったが。

 もはや「いる/いない」の議論はナンセンスだろう。なぜならば宇宙人は人間の観念、イマジネーションの力によって「生み出されてしまったもの」として歴然と在るのだから。“神の実在”をめぐる問題と同様に。『2001年宇宙の旅』には人類を導く謎の石柱“モノリス”が登場したが、自分の手の届かない偶像が必要なのだ、人間には。本作は子供時代の記憶と共に生き、全てを左右されていた登場人物たちが、“ポール”という偶像との出会いによって成長していく映画でもある。

 素晴らしいクライマックスを堪能させてくれた後、エンディングに流れるのは「世界中でパーティーがあるぞ!」と告げる、エレクトリック・ライト・オーケストラの「オール・オーヴァー・ザ・ワールド」。気分は最高。俺の頭の中では今でも、あのオレンジ色の物体が飛び続けている。

[ケトル掲載]
●監督:グレッグ・モットーラ●出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジェイソン・ベイトマン、他●2010年●アメリカ