読む映画リバイバル『フラッシュバックメモリーズ3D』

轟夕起夫は『フラッシュバックメモリーズ3D』を観た夜をずっと覚えていたいと思った

(2012年12月号より)

 その「一夜のこと」は、ずーっと記憶に留めておきたいと思った。

 去る11月16日、吉祥寺バウスシアターにて行われた爆音3D映画祭、そしてクロージングを飾った松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ3D』のことである。

 GOMAというディジュリドゥアーティストがいる。アボリジニの伝統楽器ディジュリドゥの奏者だ。彼は不運にも2009年の11月26日、首都高速で停車中、後方から追突され、脳の一部が損傷、「高次脳機能障害」となり、日々、自分の記憶を失っていく状態に。自分のこと、一緒に歩んできたバンドのこと、大切な家族との思い出……人生の記憶に、虫食いのように欠落部分が増えていき、蓄積されるべき毎日が、どこかへと過ぎ去っては消えてしまうのだ。

 だが2010年、絶望の淵から這いだしてGOMAは再びディジュリドゥを手に取り、バンドの仲間たちとスタジオに入った。それから1年後にはライブをし、奇跡的にカムバックした。一時はディジュリドゥを楽器と認識できないほど、記憶の障害はひどかったのだが、愛娘のまあちゃんのリクエストに口を付けてみるとカラダが鳴らし方を覚えていたという。いやあ音楽ってスゲえ。人間ってスゲえ〜。

 もちろん、大変なリハビリを経ての復活だったが、そんなGOMAと出会った松江監督。震災後に行われたライブを体験して、彼の映画を作ることを決意した。劇的な世界を切り取るひとつの手段としてドキュメンタリーのスタイルを選びとっている松江監督は、これを3Dにしようと思いつく。シンガーソングライター・前野健太にカメラを向け、自己投影しながら共に街を歩いた近年の2作『ライブテープ』『トーキョードリフター』とは違い、本作での松江監督は、GOMAの体内にすっぽり入ってドロドロに溶けてしまったかのよう。

 今回、3Dを導入したのはわれわれ観客に、被写体であるGOMAの「失われた過去」と「失われつつある現在」を同時に、立体的に知覚させるため。なるほど、スタジオで圧倒的な演奏をするGOMAの背後に、日記の文字やアルバム、ビデオムービー……家族に支えられながら徐々に復活してゆくプロセスが映しだされ、それはいつしか観る者をもGOMAの体内に取り込んで、ドロドロに溶かしてしまうチカラを持つ。ホーミーのごとき倍音のバイブレーション、呪術的なビートに身を委ねていると、自分の過去も同時にフラッシュバックされていく。筆者はそうだった。いろんな映像が脳内で混ざりあい、忘我の境地に近づいた。これは3Dならぬ、4D映画である!

 すでに第25回東京国際映画祭のコンペティション部門 にて観客賞を受賞。“その日”の吉祥寺バウスシアターは超満員で、スタッフが言うには人の多さによって爆音が吸収されてしまったそう。いい夜だった。が、我々もまた物事を永遠に「記憶すること」はできない。でも『フラッシュバックメモリーズ3D』は教えてくれる。「記憶は作り続けるもの」なのだと。消えても消えても、また作り直せばいいのだ、と。それが人生だ。

[ケトル掲載]
●監督:松江哲明●出演:GOMA、他●2012年●日本