読む映画リバイバル『誰がため』

際限なき疑心暗鬼……誰が敵で味方なのか? 反ナチス抵抗組織の青年2人が見た悪夢

(2010年6月29日号より)

 暗闇に、男の声が響く。「奴らを覚えてるか?」「4月9日のことだ」。そうしてこの戦争大河ドラマ、デンマークの秘史を描いた『誰がため』はおもむろに始まる。

 4月9日とは1940年、ドイツ軍に進攻され、デンマークが占領された日。画面には、ナチス・ドイツが首都コペンハーゲンを侵攻するニュース映像が映しだされ、さらに男のナレーションがかぶさっていく。

 あっという間に映画に引き込まれ、目にすることになるのは無情な暗殺場面。銃を発砲したのは、例の声の主、反ナチス運動を進める地下抵抗組織の一員、23歳のベント(トゥーレ・リントハート)だ。本作は実に血なまぐさいレジスタンス物語。第二次世界大戦末期、「ナチス・ドイツの占領下に置かれたデンマーク」という歴史的事実に、映画が初めて踏み込んだ意欲作なのである。

 主人公はひとりではなく、ベントには相棒がいる。人を殺したことがなく、もっぱら車の運転を担当している33歳、妻子持ちのヨーン(マッツ・ミケルセン)。コンビ名をコードネームで呼べば、「フラメンとシトロン」になる。これが映画の原題。2人の任務は、ナチスと秘密警察ゲシュタポに寝返った売国奴に天誅を食らわすこと。だが、怖いのは敵対する相手以上に、自ら属している組織であったりする。つまり、二人にとって周囲を蠢く者すべてが次第に、誰が敵で誰が味方なのかわからなくなってしまうのだ。再現のない疑心暗鬼。その意味では「ミステリアスな群像劇」の趣もある映画だと言える。

 ところでコードネームの由来だが、ベントは変装のためにブロンドの髪の毛を染め、失敗し、赤毛になってフラメン(=炎)に。ヨーンは車のシトロエンの修理工として働いていたからシトロン(=レモン)に。実在した二人にどんな結末が待っているかは、ぜひその目で見届けていただきたい。少なくとも単純なヒーローではない、とだけ記しておこう。デンマークの王国公文書館が当時の資料を公開せず、隠匿してきた秘史。65年後、明らかになったものをつぶさに目撃しよう。

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ナチス占領下のデンマークで闘い抜いた二人のレジスタンス秘話。フラメン役のトゥーレ・リントハートは『天使と悪魔』、シトロン役のマッツ・ミケルセンは『007/カジノ・ロワイヤル』で知られる国際派アクター。デンマーク映画史上最大級の製作費をかけ、本国では国民の8分の1を動員し、デンマーク・アカデミー賞5部門を受賞した。

[週刊SPA!掲載]
●監督:オーレ・クリスチャン・マセン●出演:トゥーレ・リントハート、他●2008年●デンマーク、チェコ、ドイツ