読む映画リバイバル『DOGLEGS』

そこには雄弁な沈黙が流れていた

(2016年2月上旬号より)

 齋藤陽道という気鋭のカメラマンがいる。昨年は宮沢賢治の詩の世界を“写真で翻案”した『写訳 春と修羅』(ナナロク社)を出版、さらには企画展に参加したり、写真展を開催したり。精力的に活動し、多忙な彼だが、“陽ノ道”という別の名前がある。障害者プロレス団体「ドッグレッグス」に所属しており、そのリングネームで闘っているのだ。

 彼は生まれたときからほとんど耳が聴こえないのだが、「ドッグレッグス」のホームページには、まだ参加してほやほや、07年4月21日に行われた第74回興行『同類』の、「アンチテーゼ北島vs陽ノ道」の試合がアーカイブ映像で見られる。

 彼とは因縁があって、取材で初めて会ったのは14年の1月末。数日後、筆者は脳梗塞を発症して入院。結局インタビュー原稿は仕上げることができず、文字起こしを編集者に託した。一命をとりとめたが右半身不随になり、リハビリの結果、多少動くようにはなったが、現在は右片麻痺の状態である。外出する際には右足に装具をつけて歩き、原稿執筆時、右手は補助程度、ほとんど左手でパソコンのキーを打っている。

 健常者から身体障害者へ。昨年の9月に、何とか社会復帰したのだが、この事実をなかなか受け止められずにいて、今でも自分が「障害者の役を演じている」気分になるときも。

 そんな筆者が、ドキュメンタリー映画「DOGLEGS」を観た。

 で、どうなったか?

 檄を飛ばされた。「一人前の障害者になれ!」と横っ面をはたかれた。ちなみに冒頭に紹介した齋藤さんは映画には映っていなかった。取材では『ドッグレッグス』に参加した理由は、「音声でないコミュニケーションとして、体でぶつかりあうというのはどうなんだろうと思ったから」だと答えていた。

 実際、映画「DOGLEGS」には拳を叩きつけあい、拳が出せなければ足や肘、頭や体をぶつけあってギリギリまで闘うファイターたちの姿があった。なかでも、勝ったほうが引退する大一番、健常者であるアンチテーゼ北島と脳性麻痺のサンボ慎太郎の宿命の対決は、目頭が熱くなった。北島は二人の関係をSMプレイに喩え、「SであったりMであったり、時々で入れ替わっている」と語っていたが、本作は一種狂おしいまでの“恋愛映画”になっていた。

 そういえば、齋藤さんもこう言っていた。「リングで二人きりで相手と見つめ合うとき、そこには雄弁な沈黙が流れていた」と。“物言わぬ存在”の声をより深く感知できるようになった気がして、写真家としても被写体との距離の測り方を学んだそう。凄いぞ、「ドッグレッグス」。

 この映画は11年、「ドッグレッグス」の20周年を捉えている。が、人生は続く。昨年、第89回興行『「超害者」~毒にも薬にもならないならいっそ害になれ~』があり、“陽ノ道”も参戦した。そして今年4月には25周年大会を開催――果たして齋藤さんはまた出るだろうか。筆者には到底できない。健常者だろうと障害者だろうと、はたまた、超害者であろうと、リングに上がって闘う者に対しては無条件で尊敬の意を表するのみ!

 言いたいのは、ただそれだけだ。

[キネマ旬報掲載]
●監督:ヒース・カズンズ●出演:サンボ慎太郎、アンチテーゼ北島、他●2015年●日本