読む映画リバイバル『それでも恋するバルセロナ』

老いてますます盛んなウディ・アレン監督。キス描写を通じて人間関係をしなやかに綴る

(2009年12月1日号より)

 老いて、ますますエロくなったと評判のウディ・アレン監督。無論それだけではない。どんな物語もスイスイと運ぶその筆致は健在で、本作ではさらに、軽妙な“語り口”に磨きをかけたと言ってもよい。

 いや本当に、話はあってなきがごとし作品なのだ。が、にもかかわらず、バルセロナに住む女たらしの画家と元妻、アメリカからバカンスにやって来た親友同士の女性2人が織りなす“乱交状態”は、実に目に愉しい。理由は、ゴージャスなスター競演映画ということもあるけれど、アレンの脚本と演出が、「キス」をめぐる多彩なシチュエーションを用意し、複雑な人間関係を面白おかしく描いてみせているのである。

 例えば、ハビエル・バルデムとスカーレット・ヨハンソン、ヤリたいだけの画家とイケイケなアメリカ女がいい雰囲気になりキスをするものの、女のほうが突如吐き気をもよおしてあえなく中断してしまうシーン。はたまた、エキセントリックで激情型のスペイン女、画家の元妻役ペネロペ・クルスとスカーレット・ヨハンソンがまさかのキスをするシーン。もっと明かしてしまえば、この3人は、トリプルキスを交わす間柄になっていくのだが、セックスそのものではなく、バリエーションに富んだキス描写を通じて、ウディ・アレンはわかりやすく、かつ、しなやかに関係性を綴ることに成功している。

 それにしても、他の登場人物たちもペチャクチャ喋っては、よくキスをするのだが、後半の最大の見ものは、レベッカ・ホール演ずるアメリカ女と、画家がキスした瞬間に訪れる悲喜劇。そして後日譚に入る絶妙なナレーション。最高にハマってる!

 目いっぱいはしゃいでいるようで、アレンの演出はラストには不思議な寂寥感、祭りのあとの寂しさを醸し出してしまうのだから大したもの。ともあれ、人がキスをするとき、拒絶するとき、しそうでしないとき……内面ではいろんな感情のドラマが蠢いている。そんな細かいディテールの描写に懸けたアレン翁。やるもんである。老いてますます盛んとは、まさにこのことだ。

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バルセロナでひと夏を過ごそうとする女性2人の、奇矯なラブ・バカンスを描いたコメディ。第66回ゴールデングルーブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、第81回アカデミー賞助演女優賞(ペネロペ・クルス)を獲得。スカーレット・ヨハンソンは『マッチポイント』『タロットカード殺人事件』に続く、3本目のウディ・アレン映画出演。

[週刊SPA!掲載]
●監督:ウディ・アレン●出演:スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、他●2008年●アメリカ、スペイン