安っぽい犯罪劇を重厚に描く……これが名匠シドニー・ルメットの手腕なり!『その土曜日、7時58分』

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Photo by chuttersnap on Unsplash
館理人
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シドニー・ルメットの遺作となった映画です。これまでの映画もざっと紹介しつつのレビューです!

館理人
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『その土曜日、7時58分』(2007年)の出演はフィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、他。

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人間の負の側面に光を当て続けてきた巨匠監督の遺作

ニューヨーク郊外の小さな宝石店に強盗が押し入った。事前の調査では老いた店番がいるはずが、そこにはひとりの女性が……。

NY批評家協会賞、ロサンゼルス批評家協会賞ほか多数の賞を受賞。邦題もなかなかだが、『BEFORE  THE  DEVIL  KNOWS YOU’RE  DEAD 』=「お前の死を、悪魔に気づかれる前に」という原題もいい。

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 安い犯罪。安い人間たちが起こしちまった激安な犯罪。

 ご紹介する映画『その土曜日、7時58分』を端的にまとめればこうなるわけだが、ここで強調すべきは作品自体は全く「安くはない」ということ。むしろ重厚。しかも一度観始めたら、最後まで心を持っていかれてしまうはず。

 なぜそうなるのか。それは言うまでもない。(2011年4月に86歳で亡くなった)名匠シドニー・ルメットの力量だ。

 監督デビュー作『十二人の怒れる男』を皮切りに、『未知への飛行』『セルピコ』『狼たちの午後』『ネットワーク』『評決』など名作多数。老いてなお、彼の演出術は健在であった。

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『十二人の怒れる男』(1957年)は12人の陪審員による法廷劇で密室サスペンス。シドニー・ルメットはアカデミー賞監督賞にノミネートされました。

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『未知への飛行』は、米ソ冷戦時代に米の誤作動でモスクワに向けて動いてしまった核爆撃機をめぐるサスペンス。

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『セルピコ』は腐敗に立ち向かうアウトロー刑事をアル・パチーノが演じます。

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『狼たちの午後』も主演はアル・パチーノ。実在の銀行強盗犯を演じます。

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『ネットワーク』は視聴率のために過激化するテレビ番組制作現場を描きます。

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『評決』は、医療過誤訴訟を起こすアル中の弁護士をポール・ニューマンが演じました。

 いやあホントーに、本作は物語ではなく「演出の力で支えられている」と思う。

 カネに困り果てたボンクラ兄弟(フィリップ・シーモア・ホフマンとイーサン・ホーク)が、両親の経営する貴金属店を襲撃する計画を立て、実行に移す。

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フィリップ・シーモア・ホフマンは、作家のトルーマン・カポーティに扮した主演作『カポーティ』の演技が各賞で評価されました。

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イーサン・ホークの出演作に『6才のボクが、大人になるまで。』など。

 ところが予期せぬ事態によって失敗に終わり、代わりに完全に“家族の崩壊”を招くはめに。ルメットはこれを描くために時間軸をバラし、兄弟、父親(アルバート・フィニー)、各々の主観で組み立て直してみせるのだが、時間を戻し、登場人物の背景を炙りだすというのはまあ、よくある手法ではある。

 が、それはルメットが若作りしているのではなく、彼がこの手法のパイオニアなのだ。例えば、同じく身内同様の人間が裏切り、店に強盗に入る『質屋』(1964年)ではもっとアナーキーにカットバック、フラッシュバックを多用し、主人公の屈折した内面を映像化していた。

 で、なんと『質屋』公開後には、テレビのCM業界で真似をされて、“サブリミナル編集”が大量に使われるようになったのだとか。ルメット自身がそう書き記している(キネマ旬報社刊「メイキングムービー」)。

 振り返ればルメットは、人間の負の側面に光を当て続けてきた。それが我々の本質であると、言わんばかりに。

 だから安っぽい犯罪を前にしても、彼は表層ではなく裏側を抉って見せてくれる。しっかりと、そしてじっくりと。

轟

週刊SPA!2009年7月7日号掲載記事を改訂!