読む映画リバイバイル『その土曜日、7時58分』

安っぽい犯罪劇を重厚に描く……これが名匠シドニー・ルメットの手腕なり!

(2009年7月7日号より)

 安い犯罪。安い人間たちが起こしちまった激安な犯罪。今回ご紹介する映画『その土曜日、7時58分』を端的にまとめればこうなるわけだが、ここで強調すべきは作品自体は全く「安くはない」ということ。むしろ重厚。しかも一度観始めたら、最後まで心を持っていかれてしまうはず。なぜそうなるのか。それは言うまでもない。つい先日、6月25日に85回目の誕生日を迎えた名匠シドニー・ルメットの力量だ。監督デビュー作『十二人の怒れる男』を皮切りに、『未知への飛行』『セルピコ』『狼たちの午後』『ネットワーク』『評決』など名作多数。老いてなお、彼の演出術は健在である。

 いやあホントーに、本作は物語ではなく「演出の力で支えられている」と思う。カネに困り果てたボンクラ兄弟(フィリップ・シーモア・ホフマンとイーサン・ホーク)が、両親の経営する貴金属店を襲撃する計画を立て、実行に移す。ところが予期せぬ事態によって失敗に終わり、代わりに完全に“家族の崩壊”を招くはめに。ルメットはこれを描くために時間軸をバラし、兄弟、父親(アルバート・フィニー)、各々の主観で組み立て直してみせるのだが、時間を戻し、登場人物の背景を炙りだすというのはまあ、よくある手法ではある。

 が、それはルメットが若作りしているのではなく、彼がこの手法のパイオニアなのだ。例えば、同じく身内同様の人間が裏切り、店に強盗に入る『質屋』(’64年)ではもっとアナーキーにカットバック、フラッシュバックを多用し、主人公の屈折した内面を映像化していた。で、なんと『質屋』公開後には、テレビのCM業界で真似をされて、“サブリミナル編集”が大量に使われるようになったのだとか。ルメット自身がそう書き記している(キネマ旬報社刊「メイキングムービー」)。

 振り返ればルメットは、人間の負の側面に光を当て続けてきた。それが我々の本質であると、言わんばかりに。だから安っぽい犯罪を前にしても、彼は表層ではなく裏側を抉って見せてくれる。しっかりと、そしてじっくりと。

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ニューヨーク郊外の小さな宝石店に強盗が押し入った。事前の調査では老いた店番がいるはずが、そこにはひとりの女性が……。NY批評家協会賞、ロサンゼルス批評家協会賞ほか多数の賞を受賞。邦題もなかなかだが、『BEFORE  THE  DEVIL  KNOWS YOU’RE  DEAD 』=「お前の死を、悪魔に気づかれる前に」という原題もいい。

[週刊SPA!掲載]
●監督:シドニー・ルメット●出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、他●2007年●アメリカ、イギリス