不敵な笑みを浮かべ、奇行を繰り返す女優・小池栄子、天晴!『接吻』

スポンサーリンク
館理人
館理人

『接吻』(2008年)の監督は万田邦敏、出演は小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、他。

館理人
館理人

レビューをどうぞ!

スポンサーリンク

常軌を逸した行動を繰り返す理解不能の小池栄子から目が離せなくなる

Photo by shahab yazdi on Unsplash

究極の純愛か? はたまた狂気の妄想か? 閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件。犯人の坂口は警察やマスコミを挑発し、逮捕前に自ら姿をカメラにさらした。それを見たOLの京子は、彼に魅かれ、奇怪な行動に走っていく。

小池栄子はこの作品で、ヨコハマ映画祭と毎日映画コンクールで主演女優賞を獲得した。

   ・   ・   ・

 皆さんは、小池栄子という名前を耳にして何を思い浮かべるだろうか? 巨乳の元グラビアアイドル。総合格闘家・坂田亘の奥さん。バラエティやトーク番組などで仕切りのうまい、頭の回転が速いタレント……ふむふむ。どれも納得の答え。

 だが、この映画『接吻』を観た後は認識が一変し、こう思うはずだ。

「女優・小池栄子、天晴れ!」

館理人
館理人

小池栄子出演映画に『パコと魔法の絵本』や…

三谷幸喜監督作『記憶にございません!』などがあります。

 彼女の役柄はOLである。とても陰気で地味な。会社から帰宅し、報道陣のカメラに向かって微笑む男の姿をTVで観て、ふと啓示を授かる。男は、一家三人を惨殺した坂口(豊川悦司)。映画はひたすら啓示どおりに行動する彼女を追いかける。

 もうハチャメチャなんである。新聞や雑誌の記事を切り取り、スクラップを始め、“坂口ノート”を作る。裁判を傍聴し、だんだんと彼に近づいていき、手紙や差し入れは当たり前、拘留中の坂口に面会を申し出て、しまいには獄中結婚してしまう。

 これは“啓示”なのだから理由はよくわからない。「一目惚れをした」だの「相手に自分と同じ人生の孤独と絶望感を感じ取った」だの、言葉では一応そう説明できるが、違うような気がする。

 強いて言うなら、悪の限りを尽くし、微笑む男の魂が憑依してしまったと。我々は、常軌を逸した行動を繰り返す小池栄子から目が離せなくなる。理解不能のまま。

 魂が憑依しているのだから、期待してもいい。彼女も“悪の微笑み”を見せる瞬間がやってくる。このシーンが素晴らしい。今、思い出してもゾクゾクする。日本映画のマニアならば「増村保造作品のミューズ、若尾文子が浮かべたかのような不敵なスマイル」と呼ぶだろう。

 終始、ビーンと異様な緊張感をはらみながら、物語は驚愕のエンディングに突入する。「栄子、一体、何をやってんだ!」と叫びたくなる。やっぱり理解不可能だ。

 しかし、だからこそ、止めどもなく惹きつけられる。理解したくって。最後の最後に出る「接吻」のタイトルが、彼女の“ゲーム”の意味を反芻させる。女は怖し。本作を全身で支えてみせた女優・小池栄子、天晴れである。

轟

週刊SPA!2009年3月3日号掲載記事を改訂!